<金口木舌>貘さんと雑煮


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 正月の食事は雑煮と決めている。新春の風情が味わえるし、何より手軽でおいしい。かくして三が日は雑煮ざんまい。酒席続きで弱った胃腸にもやさしい

▼108年前にも同類はいたらしい。1909年7月23日付本紙に「酒飲の夫を持った細君の心得」という一文が載った。二日酔いには雑煮が効くと説く。曰(いわ)く、「汁があって滑りがあるから食べよく之れを食べると直きに醒(さ)めて了(しま)ひます」
▼東京で長く暮らした山之口貘の詩「元旦の風景」に雑煮が登場する。「正月三カ日はどこでも/朝はお雑煮を/いただくもので/仕来たりなんじゃありませんか」と言いながら雑煮を食べる妻に、みそ汁好きの夫は不満げだ
▼貘さんは61年1月、「沖縄の雑煮」と題したエッセーを書いている。沖縄で雑煮を食べるようになったのは日本本土との交流が盛んになった明治以降といい「ブタ肉を使っているのが沖縄独特です」とつづっている
▼58年11月、貘さんは34年ぶりに帰郷し、正月を沖縄で過ごした。その時の感興や戸惑いを込めたのだろう。「正月と島」という詩では、日本語を使い、ドルが流通する米統治下の沖縄を「つかみどころのない島」と表現した。久しぶりの故郷で豚肉入りの雑煮は食べただろうか
▼貘さんが願った復帰から45年。新たな年が今日から動き出す。存命ならば、今の沖縄をどう見るか聞いてみたい。