<金口木舌>図書館の思い出


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 沖縄一周市郡対抗駅伝は中高生の力走が印象に残った。将来、箱根駅伝などで活躍することを思わず期待した

▼「箱根八里」を作曲した滝廉太郎のほかの代表作に「荒城の月」がある。作家の向田邦子さんは言葉を誤って覚えることがあるとして、エッセイでその一節を挙げた。「めぐる盃(さかずき) かげさして」を「眠る盃」と歌うと。酩酊(めいてい)した父の姿と酒の残る杯の記憶を合わせてつづった
▼似た経験がある。子ども時分に読んだ絵本「チムとゆうかんなせんちょうさん」で、老船長が主人公の少年に語る「海のもくずと消えるんじゃ」のせりふ。藻くずを「もずく」と覚えてしまった。酢の物を食べるたび、この本と読んでいた図書館内の様子を思い出す
▼沖縄市立図書館が移転のため2月から休館した。琉米親善センター時代からの57年間を振り返る特別展が開かれた。ある女性は制服を着た中の町小の児童が利用する様子の写真に見入っていた
▼聞けば親善センター当時からの利用者。図書館が多くの記憶を彩っていると語った。最終日の利用者の多くも借りた作品と図書館に足を運んだ思い出を重ね合わせて名残を惜しんだ
▼コリンザの新館は1フロアの面積でみると九州1、2位を争う規模になるという。蔵書も増え、機能も充実する。利便性の向上はもちろんだが、引き続き愛される館であることを市民は願っている。