<金口木舌>社会人野球


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 社会人野球の名門・三菱重工長崎の姿が今シーズンからない。グループ企業同士の統合で、昨年暮れ99年の歴史に幕を閉じた。地元唯一の社会人チームが途絶えたことは、地域にとって残念なことだろう

▼地元に恩返しがしたい―。沖縄への思いを胸に昨春、社会人野球エナジックの監督に就任したのが元プロ野球選手の石嶺和彦さんだ。早朝の全体練習から夜間の個人特訓まで目配りを欠かさない

▼現役時代の戦績は華やかだ。豊見城高校で県勢九州初制覇の際に主砲を務め、強豪・沖縄の礎を築いた。阪急(当時)入団後は56試合連続出塁の日本記録や打点王に輝いた。オールスターでパ・リーグの4番にも座った

▼一方で、古傷の半月板損傷が影響し入団4、5年目で捕手生命を絶たれた。苦境の中、外国人やベテランが主流だった指名打者を20代半ばでつかみ取った。勇姿は野球ファンだけでなく、多くの県民の心をつかんだ

▼苦労人だからこそ、仕事と野球の両立に打ち込む社会人選手らへの目は厳しく、温かい。「多くは言わないが、一言の重みが違う。実践すれば確実に結果が出る」(翁長佑次郎主将)

▼石嶺さんの現役時代を知らない選手らには、父親のような安心感があるようだ。高校時代の恩師栽弘義さんの「大胆細心」の教えを今も忘れない。県内の野球の底上げへ56歳の挑戦が始まっている。