<金口木舌>本質を伝えること


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 「大切な遺留品をご家族に直接お渡ししたいんです」。沖縄戦の遺骨収集にボランティアとして携わる川田淳さんは名前入りの割れた定規の持ち主をやっとのことで捜し出し、愛知県に住む家族に電話でこう申し入れた

▼家族は「郵送してください」と繰り返す。名前入りの遺品は珍しい。約60年間遺骨収集を続け、定規を見つけた国吉勇さんは「こんな大切な物を郵送することはできない」と断った
▼川田さんのドキュメンタリー作品「終わらない過去」は国吉さんや川田さんの思いが遺族に伝わらないもどかしさを映し出す。そこに本土と沖縄との壁も浮き彫りにする。埼玉県の丸木美術館で開かれた沖縄企画展で作品に出合った
▼「沖縄の情報は本当に伝えられていないのか」と題した同時開催のシンポジウムも興味深かった。本土と沖縄の間に偏見やデマなど何重もの壁があることが指摘された
▼壁をどう壊すか。ヒントは丸木美術館の中にある気がした。企画展は今の沖縄の問題を捉える視座の基層に沖縄戦を据えた。多くの在京メディアに欠けている捉え方だ。メディアと芸術、共通する課題は「問題の本質に迫る」こと
▼「原爆の図」や「沖縄戦の図」など丸木位里・俊夫妻の絵は戦争の本質に迫る表現にあふれ、残忍なさまが脳裏に刻まれる。戦争の実相とは-。沖縄戦の遺品にも、それを物語る力がある。