<金口木舌>日常の中の島唄


この記事を書いた人 琉球新報社

 コンサートで演奏される曲目や順番をセットリストと呼ぶ。本来は曲目を記した紙のことを指すそうだ。16日に沖縄市の中央パークアベニューに張り出されたそれは壮観だった

▼島唄の祭典「コザ・てるりん祭」の演目一覧。正午から約9時間、若手から大御所の約30人が出演した。戦後沖縄のエンターテイナー、照屋林助さんをしのび、ことし9回目
▼この日は早朝に北朝鮮による弾道ミサイル発射が報じられた。朝刊には沖縄攻撃を想定した嘉手納基地での訓練実施が載った。幕あいにマイクを持った林助さんの長男の林賢さんが「平和で(開催できて)良かった」と話したのが印象的だった
▼哀惜、恋慕、傷心、歓喜…。歌い手は人々の細やかな情感や人情の機微を歌い上げた。こうした市井の動きとは全く無関係に、突如として基地の存在を意識させられ、住民生活も影響を受けてきた沖縄である
▼林助さんは「何事もまずは肯定する」というチャンプラリズムを提唱した。芸事のことだけでなく、戦後の激動の中、たくましく生きる人々やその生活に誇りを見いだす思想だったのではないか。演者らの林助さんとの思い出話を聞いてそう思った
▼日が暮れる中、パークアベニューの特設ステージ前は、思い思いに島唄に聞き入る人たちであふれた。こうした日常こそ尊いと強く感じさせる、ことしの「てるりん祭」だった。