<金口木舌>凍った涙が溶ける日


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 落語で大切なのは共感だという。共感には陰陽があり、陽が笑いなら陰は涙。落語家の桂春蝶さんは言う。「笑いにこだわらず、人間そのものを伝える落語があってもいい」

▼春蝶さんは24日、浦添市の国立劇場おきなわでの独演会で「ニライカナイで逢(あ)いましょう」の演目を披露する。沖縄戦でのひめゆり学徒隊の物語を通して「命のぬくもり」を伝える。東京での先行公演を鑑賞した
▼その一場面、命の重みが鮮明に分かれる。自分たちの命の意味を問う特攻兵士に上官が答える。「軍人が死ぬことで国民は一つにまとまる。貴様ら軍人が全員死ぬことだ」
▼一方、戦場をさまよう学徒隊の引率教師は生徒を生かすことを選ぶ。目前の負傷兵が死んでも「涙が出ない」と自分を責める生徒一人一人に夢を尋ね、生きれば必ずかなうと励ます。「命こそ未来への大きな贈りもの」と
▼あすは「慰霊の日」。毎年、埋もれた命に気付かされる。今年の平和の礎への追加刻銘は54人。1歳前後の姉を亡くした遺族は「乳飲み子でも命の尊さは同じ」と語った
▼鉄血勤皇隊での体験を基に、平和の礎を築いた大田昌秀さんが亡くなって10日余り。県民の多くが特別な思いで「6・23」を迎えるに違いない。先の引率教師は「生きればいつかきっと凍った涙は溶ける」と説いた。新基地建設が進む沖縄に、その日はいつ訪れるのだろうか。