<金口木舌>早く見つけてあげられたら


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 支社勤務のころ、地域を回っていると防災無線から情報提供を求める放送が流れてきた。高齢の女性が2日前から行方不明になっているという。家族をはじめ自治会、女性が通う福祉施設職員らも総出で捜したが見つからない

▼情報を求める記事を書いて数日後、女性の家族から電話があった。市内の空き家でうずくまって病死しているのが発見されたとのことだった。住宅街の外れの死角のような場所で発見が遅れたと沈痛な声だった
▼福祉施設の職員も、日頃の行動範囲の外で思いが至らなかったと残念そうにつぶやいた。「早く見つけてあげられたら」と悔やまれた。今思えば、認知症による徘徊(はいかい)だったのだろう
▼今や認知症は人ごとではない。しかし国の対策は現状に追い付けていない。身元が分からないまま保護されている人もいる。だが、身元確認のための顔写真公開も、多くの自治体は個人情報保護を盾に及び腰だ
▼91歳の男性が徘徊中に列車にはねられて亡くなった事故では、JR東海がダイヤの遅れを損害として賠償請求し、当時85歳の妻の監督責任を認める判決も出ている。介護する家族にとって厳し過ぎる
▼国は、患者や家族を手助けする「認知症サポーター」育成などの対策の検討に入った。家族だけに負担を負わせない仕組みづくりが急がれる。人生の最期が悔やまれる結果とならないために。