<社説>自民TPP対策 臨時国会で徹底論議せよ


この記事を書いた人 Avatar photo 宮城 菜那

 自民党は環太平洋連携協定(TPP)対策を正式決定し、政府に提言した。

 特に農業分野は「農政新時代」を前面に掲げたが、米や牛・豚肉などの補助事業や保護策が中心だ。農家に広がる反発を沈静化させるための「ばらまき」と批判されても仕方がない。
 政府はTPPの詳しい影響を示していない。なぜか。交渉過程が隠されたため疑問は尽きない。臨時国会を開いてTPP大筋合意を徹底検証すべきだ。
 自民党のTPP対策によると、農業の影響緩和策は、輸入米の増加が国産米の値下がりを招く事態を防ぐため、輸入量と同量の国産米を政府が備蓄用に買い入れる。
 沖縄が影響を受ける牛・豚は経営安定対策を強化し、生産費と粗収益の差額の補填(ほてん)割合を9割に引き上げる。豚は積立金の国の負担割合を4分の3に引き上げる。サトウキビなどの甘味資源作物を支援する調整金については、TPPによって調整金収入が減らないように加糖調整品の輸入から新たに調整金を徴収する。
 一方、農業の競争力を強化するため「産地パワーアップ事業」を創設する。地域の営農戦略に基づき、高性能機械の導入などを支援する。畜産・酪農家と飼料加工業者らが連携して生産効率を高める畜産クラスター事業も拡充する。
 確かに「攻め」の項目は並ぶが、具体策に踏み込んでいない。例えば農家から要望の強かった畜産クラスター事業は「拡充」としたが詳細は打ち出さなかった。
 保護策と成長策の双方の総額も示していない。TPP大筋合意で、日本の農林水産品のうち発効直後に全体の約51%が関税ゼロになり、最終的には81%となる。関税収入が減る中で、農業振興の財源をどのようにして確保するのか。自民党は「既存の農林水産予算が削減されることなく安定財源を確保する」と約束している。しかし、厳しい財政事情の中で実効性は大いに疑問だ。
 今回の自民党のTPP対策が、来夏に参院選を控え、農家の反発を抑えるための応急措置だとすれば本末転倒だ。もはや関税貿易一般協定(ガット)ウルグアイ・ラウンド合意時の農業保護策のような「ばらまき」は通用しない。
 TPPについて国民の理解はまだ十分とは言えない中で、安倍政権の都合で臨時国会を見送ることは許されない。