<社説>保護策見直し要求 TPP自体問い直すべきだ


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 日本政府が環太平洋連携協定(TPP)対策大綱に盛り込んだ養豚農家保護策を、米政府が見直すよう迫っていたことが分かった。

 日本側は拒否したが、11月の日米首脳会談でオバマ大統領から見直しを働き掛けられた安倍晋三首相は明確な返答を避けた。首相が大統領の顔を立てて返答を控えたとすれば、首脳会談の意義さえ問われる。
 首脳会談の翌日、森山裕農林水産相がビルサック米農務長官に見直し要求拒否を伝えたが、事は日本の農業が大きく変わるTPPに関する重要事項である。首相が即座に拒否すべきだった。日本の農業を真剣に守る意思が首相にあるのか疑念さえ湧く。
 豚肉に関するTPP交渉では、低価格の部位に課している1キロ482円の関税を10年目に50円に下げるなどの関税の大幅削減が決まっている。このため、TPP対策大綱では交付金制度を拡充し、これまで予算で措置していた生産者の所得補填(ほてん)事業を法制化し、赤字補填の割合を8割から9割に引き上げることを決定した。
 米側はこの保護策を適正な競争を妨げる非関税障壁と見なして米国の豚肉輸出が進まないと判断し、日本の対策に異例の注文を付けたとみられる。内政干渉も甚だしい。一方で、日米双方の対応は事前に調整していた可能性はないか。
 米側は協定発効に必要な議会承認を円滑に進めるため、米豚肉業界の意向に沿って対応している姿勢を示さねばならない。日本側はTPP説明会を重ねても農家の怒りや不安が収まらないため、米側の要求には屈せずに農家を守っているとの姿勢をアピールしたい思惑がある。そう見なしても不思議ではない。
 日米関係筋が保護策の見直し要求を首脳会談から3週間近くたって明らかにしたのは、双方の国内事情をにらんで時期を見計らっていた結果ではないか。だとすれば少なくとも日本では逆効果である。そのような計略をめぐらしたとすれば不誠実極まりない。
 米政府の横やりは論外だが、日本政府の方針を是とするものでもない。TPP対策大綱が妥当かどうか以前に、TPP自体を問い直す必要がある。大筋合意は豚肉など重要5項目の関税が大幅に下がる内容であり、関税撤廃の例外とした国会決議に反する。国会で審議を十分尽くすべきだ。