<社説>ハンセン病謝罪 言葉だけでなく再審認めよ


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 ハンセン病患者の裁判を隔離先の療養所などに設置した「特別法廷」で開いていたことについて、最高裁が設置手続きに不適切な点があったことを認め、元患者に謝罪することを検討している。政府と国会が隔離政策の過ちを認めてから15年近くが経過しており、遅きに失したと言わざるを得ない。三権の一翼を担う「人権のとりで」としての意識が希薄だったと考えるほかない。

 外部有識者委員会が「法の下の平等や裁判の公開を定めた憲法に違反する疑いがある」との意見を最高裁に伝えている。憲法の番人が憲法違反の疑いを指摘された。最高裁は深刻に受け止めるべきだ。
 ハンセン病患者の特別法廷は1948~72年に療養所や刑務所、拘置所などで95件開かれ、申請が取り下げられた1件を除き全てが許可されていた。一方で結核などハンセン病以外の事例では48~90年の申請61件中9件しか認められていない。本来は病状や感染の恐れの有無などを精査すべきなのに、ハンセン病では十分に審査せずに開廷を許可していた。最高裁に差別意識があったとしか思えない。
 療養施設の一室に設けられた特別法廷には消毒液がまかれ、白衣を着てゴムの長靴を履いた裁判官や書記官、検察官、弁護人が並び、傍聴人はいなかった。裁判官はゴム手袋をして調書をめくり、火箸や割り箸で証拠品をつまみ上げたという。元書記官が明かした法廷の様子だ。人権侵害も甚だしい。感染を恐れた裁判官らが事件を十分に審理できたのかも疑わしい。
 全国ハンセン病療養所入所者協議会などが問題にしているのが「菊池事件」と呼ばれる殺人事件の裁判だ。被告は無罪を主張したが、一審判決で死刑が言い渡され、上告棄却で確定した。被告は第3次の再審請求をしたが、棄却された翌日に刑を執行されている。厚生労働省は2005年、この裁判について「憲法的な要求を満たした裁判であったとはいえない」とする報告書をまとめた。しかし最高裁は動かなかった。
 今回も最高裁は元患者側の要請を受けて調査を開始しており、自発的ではない。隔離政策を続けた行政だけでなく、司法にまで不当な扱いを受けた元患者らの不信感は安易な謝罪の言葉だけでは拭えない。再審請求を認めるなど、個別の裁判手続きの是非にも踏み込むべきだ。