<社説>天皇生前退位意向 皇位継承で国民的論議を


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 天皇陛下が、皇太子さまに皇位を譲る生前退位の意向を示していることが分かった。今春、「天皇である以上は公務を全うする。そうでなければ天皇としてふさわしくない」という考えを身近な関係者に伝えていた。

 宮内庁が検討する大幅な公務削減策を拒んだ上で、十分な活動ができなければ皇位を譲るという意向を示したものだ。
 1989年の即位時、天皇陛下は「日本国憲法を守り、これに従って責務を果たすことを誓う」との決意を表明した。その後も「象徴としての地位と活動は一体不離」と述べ、公務を全うしてきた。
 生前退位の意向も、憲法に規定された象徴天皇制の趣旨を重んじるという姿勢から発したものであろう。国民の多くはそのことを重く受け止め、尊重するはずだ。
 皇室典範には天皇の退位に関する規定はない。生前退位を行うためには皇室典範を改正する必要がある。ここで留意したいのは「開かれた皇室」という理念を踏まえた国民的な論議である。
 首相の私的諮問機関「皇室典範に関する有識者会議」は2005年、皇位継承資格を女性とその子どもの「女系」皇族にも拡大するよう求める報告書を小泉純一郎首相に提出している。
 その際、課題となったのが会議の在り方だった。有識者会議の会合は非公開であり、1年足らずで報告書をまとめた。閉鎖的であり、議論そのものも拙速と指摘されたのである。
 皇位継承は多くの国民の関心事である。改正論議は国民と懸け離れたものであってはならない。象徴天皇制の本旨を踏まえ、国民に開かれた論議に徹すべきだ。
 天皇陛下は東日本大震災など自然災害の被災地を訪れ、被災者を励ましてきた。国内外の戦争犠牲者の慰霊にも力を注いだ。
 その中でも沖縄戦犠牲者の慰霊には心を砕いてきた。皇太子時代を含めて10回の来県で、犠牲者遺族や沖縄戦体験者と対話を重ねてきた。
 このような取り組みの中で国民に親しまれ、過去の戦争を反省し、平和を希求する皇室像が生まれた。
 改憲の動きの中で、平和憲法を尊重する天皇陛下の発言が注目されてきた。今回の生前退位の意向と今後予想される皇室典範改正についても、憲法と平和の理念を踏まえた論議を重ねたい。