<社説>機動隊の危険行為 優先すべきは市民の安全


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 優先すべきは工事ではなく、市民の安全である。その当たり前のことさえ理解できない機動隊は、即座に撤収すべきだ。

 東村と国頭村に広がる米軍北部訓練場内に新設されるヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)のうち、H地区の工事現場周辺で、木の伐採を阻止しようとした市民十数人を、機動隊員がロープで縛った上で強制排除した。
 市民の安全を一顧だにしない暴挙であり、強く抗議する。
 機動隊員は、数メートルの高さがあるヘリパッド造成地の斜面に座り込むなどしていた市民一人一人の腰などにロープを巻き付けた。斜面上の機動隊員がそのロープを引っ張り、下にいた機動隊員が市民を抱える形で上に運んだ。
 録画されているのを意識してか、市民が撮影した動画には機動隊員が「移動をお願いします」と丁寧に促す言葉も入っている。
 だが、言葉と裏腹にやっていることは乱暴過ぎる。市民を物として扱っているとしか思えない。市民を縛った工事用の細いロープは体に食い込み、相当な苦痛を与えることは容易に想像がつく。これが機動隊のやることなのか。
 女性の一人は「リュックサックにロープを結ばれたので、引っ張り上げられた時に首が絞まるような形になった」と話している。極めて危険な行為であり、到底認めることはできない。
 足首をひねった50代男性のため、救急車を呼ぶよう市民が求めても、機動隊側は当初無視したという。けがを負った市民を一時的であれ、放置したことは看過できない。
 政府は米軍提供施設内への市民の立ち入りに対し、刑事特別法を適用し、逮捕する方向で調整している。基地警備員や沖縄防衛局職員をその任に当たらせる方針とされる。
 横田達弁護士は「基地内での私人逮捕は法律的にできなくはない。だが、本来の職務を逸脱した不当な逮捕になる」と指摘している。防衛局の職員が政府として推し進める工事で「私人」を装うことは許されない。
 子や孫、沖縄の将来のため、座り込む市民に対し、政府が刑特法を適用して逮捕するなら「弾圧国家」のそしりを免れない。
 沖縄に過重な米軍基地負担を押し付け何ら恥じないばかりか、抗議する市民を暴力的に排除し、逮捕まで画策する。そんな政府に正義はない。