<社説>揺らぐ米比関係 在沖米軍への影響注視する


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 フィリピンのドゥテルテ大統領の言動が波紋を広げている。米軍に「2年以内の撤退を求める」とする一方、中国との南沙諸島の領有権争いは「棚上げ」し、従来の同国の親米路線から「親中反米」への転換を示唆しているからだ。

 同国からの米軍撤退が現実となれば米国のアジア戦略は大きな見直しを迫られる。在沖米軍にも影響を与える可能性があり、注視していきたい。
 大統領は6月の就任以来、反米発言を繰り返してきた。10月下旬の訪中では「軍事的にも経済的にも米国と決別する」と宣言。その後、日本での講演で「2年以内の米軍撤退」に言及した。
 大統領の麻薬撲滅政策を米国が人権問題と批判することへの反発ともみられる。しかし「米国の属国ではない」などの発言は、米国統治時代から独立後の米軍駐留、米国の経済支配からの脱却を目指す姿勢をうかがわせる。
 中国の習近平国家主席との会談では領有権問題の「一時棚上げ」に合意し「密接に協力し、両国関係を全面的に改善・発展させる」と親中国の柔軟路線を敷いた。
 米、比両軍は中国をにらみ在沖米軍も参加する定期合同訓練を行ってきた。しかし大統領は都内での講演で合同訓練の打ち切りを表明し、米軍駐留を認める米比防衛協力強化協定の「見直し、破棄」もあり得るとの見解を示した。
 フィリピンの駐留米軍は1992年にも嘉手納基地に「暫定移駐」し、フィリピンが米軍の駐留延長を認めず正式移転した経緯がある。
 大統領が米軍駐留を拒否した場合、アジア太平洋の米軍配置、在沖米軍にも影響が及ぶ可能性がある。軍事専門家は「フィリピンの代わりに沖縄の兵力を増強するかもしれない」と指摘している。
 大統領の中国への接近は、中国経済の影響も大きい。領海問題の「棚上げ」合意で1兆4千億円の経済援助を引き出し、中国も海域でのフィリピン漁民の操業を認め、一時的な緊張緩和につながっている。
 中国はベトナムにも接近し、中国海軍艦艇の初寄港を受け入れさせた。アジアにおける中国の経済的、政治的影響力が増しつつある兆しとも受け止められよう。
 日本政府は日米同盟に基づく米国中心の軍事安全保障だけでなく、アジア各国の動向を見据えた外交政策が求められている。