<社説>TPP強行採決 参院で審議をやり直せ


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 環太平洋連携協定(TPP)は国民の暮らしにどう影響するのか、疑問は一つも解消されなかった。衆院特別委でTPP承認案と関連法案が強行採決された。安全保障関連法案の時と同様に、巨大与党は「数の横暴」で押し切った。

 山本有二農水相の度重なる暴言もあり、到底、審議を尽くしたとは言い難い。与党は8日に衆院本会議可決を想定しているという。国民生活に直結する重要事項にもかかわらず、数を頼みに押し通す与党の姿勢は疑問だ。少なくとも参院で徹底的に審議し直し、TPPが国民にとって本当に必要か問い直すべきだ。
 山本農相は審議を打ち切る強行採決を「冗談」とするなど国会を軽視した。JA関係者への利益誘導と受け取られる発言もあった。一部報道では地元高知県のイベントでTPP合意撤回に賛成する署名をしたとも伝えられる。所管の大臣がこのような人物で、誠実な答弁を得られたと思えるだろうか。
 それでなくともTPPへの疑問や懸念は多い。JA沖縄中央会の試算では、県内農業への影響は畜産分野を中心に200億円に上るという。北海道と宮崎県で開かれた衆院特別委の地方公聴会でも「日本の農業の瓦解(がかい)につながる」などと懸念する声があった。
 こうした声を裏付けるのが農林中金総合研究所のリポート(2014年12月)だ。それによると、日本の農産物輸出の48%は調味料や菓子類などの加工食品で、その大半は輸入原料を使っている。輸出品のうち、純粋な国産農産物は、国内農業生産額の1%にすぎない。
 TPPを契機に「農産品輸出1兆円」を掲げる安倍政権の方針に対し、リポートは加工食品などの農産品輸出が拡大しても、原料を輸入に頼る以上「日本農業への寄与は限定的」として「貿易自由化への懸念を輸出促進に目をそらせることにより反発・批判を緩和」させるものだと指摘している。
 安倍政権は「攻めの農業」と勇ましい掛け声を繰り返すが、関税撤廃による農産物の価格低下、農家所得の減少に対する不安は解消されていない。
 米大統領選の2候補もTPPに否定的で、発効の条件である米国議会の承認も得られるのか不透明だ。農業だけでなく貿易、投資、金融、衛生などTPPの範囲は幅広い。政府は採決を急ぐより、丁寧な説明で議論を深めるのと同時に、再交渉も視野に入れるべきだ。