<社説>「破砕許可」不申請 手続き経ぬ工事許されぬ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 国は名護市辺野古沿岸部への新基地建設を巡り、3月末に更新期限を迎える「岩礁破砕許可」について事実上、県に申請しない方針を固めた。守るべき手続きを無視し、建設工事を強行することは許されない。

 名護漁業協同組合は2014年に続き、昨年11月には臨時制限区域の漁業権放棄に同意し、今年1月に損失補償契約を締結した。
 国はそれを根拠に漁業権が消滅したとして、再申請の必要はないと判断したというのだ。その判断は矛盾に満ちている。到底認められない。
 前知事への岩礁破砕許可申請は14年の名護漁協の漁業権放棄同意後である。今回は必要ないとなぜ言えるのか。
 辺野古と同じように地元漁協が漁業権の消滅に同意し、漁業補償も受けている那覇空港第2滑走路建設工事では、沖縄総合事務局が今年1月、岩礁破砕許可の更新を県に申請している。
 総合事務局の申請後に、岩礁破砕許可手続きを定めた県漁業調整規則が改定されたとでもいうのだろうか。辺野古新基地に限って再申請不要とすることは、二重基準にほかならない。
 水産庁が12年に出した通達文書は、漁業権変更には「漁業計画を見直し、事前にこれを決定の上、公示しなければならない」と手続きを求めている。漁業権の運用を定めた漁業法22条は、既存の漁業権に変更を加える場合は「都道府県知事に申請してその免許を受けなければならない」としている。
 国がこれらの指針や法を考慮した形跡はない。「建設ありき」のやり方は、いかにも乱暴だ。
 「行政の一般的な解釈として護岸で囲い込み、海水の出入りがなくなることが確認されなければ漁業権は消失しない。漁業権の免許権者は知事であり、漁協の一存だけで漁業権が変更すれば、公共財である漁業権が『切り売り』されてしまう」
 県のこれらの指摘に政府は反論できまい。
 国が再申請せずに工事した場合、県は許可なく工事するのは違法だとして、国を相手取った提訴を検討している。当然である。
 菅義偉官房長官は常々「わが国は法治国家」と強調している。翁長雄志知事の知事権限を無力化するためには、守るべきルールも無視する。これで法治国家とは断じて認められない。