<南風>大学入試改革


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 前回、私の専門分野として紹介した心理測定学において、テストの作成や評価に応用される統計学的な理論は、テスト理論と呼ばれています。

 テスト理論に関連して、いま注目を集めているのが大学入試改革です。2014年12月の中央教育審議会の答申を受けて文部科学省に設置された「高大接続システム改革会議」は、3月31日に最終報告を公表しました。私もその会議のメンバーでしたが、テスト理論の専門家は私だけでしたので、その責任を果たすべく、積極的に意見を述べてきました。
 今回の改革案で注目されていることの一つは、現在の大学入試センター試験を新テストに衣替えし、その中で記述式の問題を導入するということです。思考力や表現力を評価するためという理由ですが、50万人規模のテストですので、採点の作業コストを考えて数十字程度の短文記述とし、答案はあらかじめ設定した条件に合っているかどうかを中心に評価するとされています。
 私は、記述式は大規模テストには馴染(なじ)まないこと、採点基準や採点方法によっては思考力や表現力を適切に測るものにはならないこと、記述式だと限られた時間内に実施できる項目数が減り、測定内容の偏りが大きくなること等の問題点を会議で指摘してきました。しかし、中教審答申にすでに含まれていた記述式導入の方針を変更させることはできませんでした。
 それでも最終報告には、記述式導入の具体化に向けて、実証的・専門的な検討を丁寧に行うとされています。その検討によって、もし上述のような問題点がクリアできるというエビデンスが得られたら先に進む、得られなければ進まない、という慎重な姿勢で臨んでほしいというメッセージを強く伝えて、全14回にわたった会議を終えました。
(南風原朝和、東京大学理事・副学長)