<南風>都市鉱山


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 ガーナの鉱山で働く若い鉱夫は、真っ黒に汚れた顔でカメラを見据えている。人がようやく通れる縦穴を地下100メートルまで潜り、72時間、土埃(ぼこり)と熱気にむせ返りながら石を切り出す。大した道具もなく、手元を照らすのは古ゴムで頭に縛りつけた懐中電灯のみだ。

 地上ではこれらの石を砕いて金を取り出す作業が続く。採取工程に必要な水銀で汚染された水の中で作業をする人々。子供を抱えたままの女性もいる。

 これはある米国女性写真家がとらえた現代版奴隷の一例だ。良い教育や仕事など、嘘の約束に騙(だま)されて、無報酬で暴力に怯(おび)えながら違法労働を強いられる大人や子ども。インドやネパールのレンガ製造工場、繊維工場、売春宿、ガーナでの漁、そして金採掘。少なく見積もって世界に2700万人いるという現代奴隷を生み出す背景には、私たち日本人も享受する、年間1兆4千億円以上におよぶ商業利益がある。

 2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、金・銀・銅あわせて約5千個のメダルを「都市鉱山」から製作する計画が進行中だ。都市で廃棄される電子機器や家電製品に残る有用な資源を鉱山に見なしてこの名がつけられた。

 携帯電話1台には金0・03グラム、銀0・2グラム、銅10グラムのほか、鉄や錫(すず)、チタンやニッケルなどの希少金属も含まれる。金メダル1個あたり携帯電話200台、前回大会を基に算定すると、金9・6キロ、銀1210キロ、銅700キロが必要になるという。

 日本の環境先進性を世界にアピールできるこの計画に、国民全員が参加可能だ。使用済み携帯電話やスマートフォン、小型家電が各家庭に眠っていないだろうか。限りある資源を活かし、海の向こうで奴隷労働を強いられている人たちに思いを馳(は)せる。先進国に住む私たちが果たすべき責任がここにある。
(名取薫、沖縄科学技術大学院大学広報メディアセクションリーダー)