ヤンバルクイナ、民家の庭先で水浴び


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ぽかぽか陽気の中、気持ち良さそうに羽を広げながら、たらいの中で水浴びするヤンバルクイナ

 10月下旬、秋晴れの午後。沖縄本島北部の民家のそばにある空き地に、ヤンバルクイナのつがいはどこからともなく現れた。

 たらいのふちに飛び乗り、水の中にざぶん。周りをきょろきょろ見回して、警戒心を持ちつつも、勢いよく水しぶきを上げ、気持ち良さそうに水浴びを始めた。
 くちばしを水につけてはおいしそうに飲み込み、羽を繕う。一羽が水浴びを終えると、交代でもう一羽も水浴びを始めた。時間にしてわずか1~2分の出来事だ。

人の生活圏に出没
 「キキキキキキッ…」。集落を歩いていると、遠くの森から、また付近の茂みから、甲高い特徴のあるヤンバルクイナの鳴き声が響き渡る。
 「うちの庭の洗濯物干しを止まり木にして、夜寝ているのを見たことがある」「道路で車が通り過ぎるのを待って、横切って行った」「数年前、家の玄関から上がってきたことがある。こっちも驚いたけど、クイナも驚いたのか、ふんをして出て行った」-。
 “絶滅危惧種”に指定されている野生動物とは思えない意外な目撃証言の数々に出合った。
 北部地域に千羽ほどしか生息していないヤンバルクイナは、1981年に発見され、国の天然記念物に指定された。本島内でも、また世界中でも国頭村、大宜味村、東村にしか生息しない固有種だ。マングースや野良猫による襲撃、交通事故の輪禍で一時期は700羽まで減少したが、ここ数年回復傾向にあるという。
 そのクイナが、人間の生活圏に近い場所で暮らしている。環境省やんばる自然保護官事務所=国頭村比地=の自然保護官・福田真(まこと)さん(30)は推測する。「ここ数年、個体数が増えたということもあるが、道路や人里近くでの目撃が増えている。森の中よりも、餌を捕りやすいという知恵がついてきたのかもしれない」
 一方、県外でイノシシやシカによる農作物被害で、動物と人間のすみ分けが問題化していることを考えると「クイナは森にすむのが本来の姿」と福田さん。

共生の道を築く
 必ずしもヤンバルクイナにとって、人里近くで暮らすことが幸せかどうかは分からない。しかしクイナがすみやすい地域づくりに取り組んできた、地元の人たちの努力もある。
 8月、国頭村安田区は「ヤンバルクイナの里宣言」をした。2002年に全国で初めて飼い猫を登録するマイクロチップを導入し、飼い猫条例を制定。ハブ対策とクイナが産卵する草むらの確保で、区内の草刈りマップを作成するなど地道な保護活動に取り組んできた。
 安田区区長の神山坦治(やすはる)さん(72)は「ヤンバルクイナをきっかけに、山、川、海が身近にあり、自然豊かな安田の素晴らしさを多くの人に発信したい」と語る。
 ストレス社会の今、癒やしを求めて安田のような地域が今後必要とされる時代が来ると神山さんは確信している。同区の「ヤンバルクイナとの共生」は、これからも続く。
(文・知花亜美、写真・花城太)
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撮影に当たって
 ヤンバルクイナを刺激しないよう、カメラに消音カバーを付け、周りの樹木などの色に似せた迷彩色のカバーを覆って固定。リモートを使い、細心の注意を払って遠隔操作で撮影した。