「はいたいコラム」 もしも桜島が部長だったら


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 島んちゅのみなさん、はいたい~!島ブーム、来てますよ~。先日は鹿児島県桜島を訪ねました。もっとも都市部に近い活火山ですが、地元の人によると、「近頃どうも静かでおとなし過ぎるから、そろそろ暴れる頃なんじゃないか」と、まるでどこかの上司のウワサでもするように話してくれました。怒りっぽいS島部長、そろそろ来るぞ。備えておけばリスクも小さく済みますし、なかなか悪くない付き合い方だと思いませんか。

 さて桜島といえば、大きな桜島大根が有名ですが、一方、世界最小級といわれる「桜島小みかん」があります。直径3~5センチのかわいらしさで皮が薄く、酸味と甘みのバランスもよく、江戸幕府へも献上された歴史あるみかんです。
 温暖な島の気候が、小みかん栽培に適していますが、ハウスは灰よけのため、上部の屋根だけビニールで覆われていました。それでも灰が入ってくるため換気扇を付けたハウスもあるそうです。桜島の暮らしに火山灰問題はつきまといますが、同時に灰の土壌は水はけがよく、みかん栽培にとっては恵みでもあります。
 そういえば、島を巡るバスに乗ったとき、運転手さんが島のお墓についてガイドしてくれました。車窓から見ると、お墓一つ一つにちょっとした祠のような瓦屋根が付いています。代々継承されたご先祖さまを火山灰から守るために、島独得のお墓の様式美が育まれていたのです。
 土地への愛着とは、そういうことなんですね。かんしゃく持ちのS島部長は、どんな会社にもどの地域にも必ずいるものです。上司と喧嘩する前に、瓦屋根という盾を編み出して、身にまとうことが私たちに与えられた叡智です。文化も知恵も課題があるから生まれるのです。
 さらにビジターセンターの売店で、「へ」アイスを見つけました。「へ」とは、「はい(灰)」の方言で、鹿児島の人は、「へが降った」などというそうです。アイスの色は見事な灰色です。(安心してください。へは入ってませんよ)なんと竹炭を練り込んで灰の色を表現したというのです。火山灰を逆手に取った地域の特産品ですね。地域資源を活用した6次産業化が盛んですが、地域の課題こそ地域の資源です。無料の足湯につかりながら桜島部長ありがとうと言いたくなりました。
 (フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)
(第1、3日曜掲載)
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 小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ。介護・福祉、食、農業をテーマにした番組司会、講演などで活躍中。野菜を作る「ベジアナ」として、農ある暮らしの豊かさを提唱、全国の農村を回る。