【島人の目】「アラブはシチリアの一部」


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 イタリアのシチリア島は、9世紀から11世紀にかけてアラブ・イスラム教徒に支配された。島最大の都市パレルモを筆頭に、同地には今でもその影響が多く残っている。例えばアラブのモスク風の赤い丸屋根を持つ教会。数え切れないほどある「西洋風」の教会の中にあって、全く違う雰囲気を醸し出している。それらの歴史的建築物は鮮烈で美しい。

 当時のアラブ世界は数学や天文学や医学、薬学、化学、また灌漑(かんがい)技術などもヨーロッパより進んでいた。アラブ人は彼らの進んだ技術や学問や優れた建築・芸術様式などをシチリア島に持ち込んだ。
 その中でも特に灌漑技術はシチリアの農業を飛躍的に発展させた。島の名産物の代名詞であるオレンジやみかんなどの柑橘(かんきつ)類もアラブ人がもたらしたものである。彼らはそれ以外にも多くの農産物を初めてシチリア島に導入した。
 アイスクリームの原型とされるシャーベットもアラブ人がもたらしたものである。島にあるヨーロッパ最大の火山、標高約3330メートルのエトナ山頂の雪を利用して彼らは夏もシャーベットを作り、それはやがてアイスクリームへと形を変えていった。
 そういう歴史をしっかりと認識しているシチリアの人々は「アラブはシチリアの一部だよ」とまで断言してアラブ・イスラム文化をたたえる。
 現在イスラム過激派のテロなどの蛮行が世界を震撼(しんかん)させている。欧州にはいわゆるイスラムフォビア(嫌悪)の感情が広がりつつある。そんな中でアラブ・イスラムを自らの一部とまで捉えて称賛するシチリアの人々の正直と懐の深さが僕は大好きである。彼らは「テロリストと一般のイスラム教徒を混同してはならない」という当たり前の原則をやすやすと実践しているように見える。
(仲宗根雅則、TVディレクター)