くらし

アジア人客が並ぶ店の謎 ネットで人気広がる

 「腹減ったなあ。きょうの昼飯はどうしようか」
 梅雨入りした昼下がり。腹時計の鳴動を察知し、那覇市の沖映通りを歩いていたタクオ。その目に飛び込んできたのは狭い歩道を挟むように並ぶ人の列だ。一行が目指すはラーメン店「暖暮(だんぼ)」。沖縄ではなかなかお目にかかれない長蛇の列に興味を引かれ並んでみた。


ラーメン店「暖暮」那覇牧志店前には、小雨の中、中国や台湾、韓国の人たちが傘を差して並んでいた=那覇市の沖映通り

■沖縄に来てラーメン?
 聞こえてくるのは中国語ばかり。ラーメンは中国語で、もちろん自国でも食べているはず。周囲にはほかにもラーメン店があるが、列があるのはこの店だけ。二重にびっくりしたタクオは、列に並ぶ人たちに内偵を始めた。
 「台湾のブログで話題だったので来た」と話すのは呉倩宜(ごせいぎ)さん、瀬品樺(らいひんか)さんの女性2人組。沖縄のお勧め飲食店の場所を記した台湾のブログにある地図を見せてくれた。台湾では今、日本式ラーメン店の出店が相次ぎ、人気なのだという。
 時折小雨が降るあいにくの天気にもかかわらず、ビニール傘を差して待つ人たち。1時間粘り、ようやく店内に入れた。

■店員もびっくり
 「コリアン? チャイニーズ?」と店員さんに話しかけられた。どの言語で書かれたメニュー表を出すべきか、確認しているようだ。「地元です」と答えると、ちょっとほっとした表情で様子を教えてくれた。
 「外国人が急増したのは1年半程前から。暖暮は他にもあるが、列ができるのはなぜかここだけ」という。満席の店内でウチナーンチュはタクオ一人だけだった。
 湯気を立て出されたラーメンは、濃厚だけどあっさりした味の豚骨スープが身に染みる。トッピングの煮卵も味が染み黄身もとろみがあって絶妙だ。好みに合わせて麺のかたさや辛さが選べるのも魅力。先ほどの2人組は「ほかのラーメン店も気になったけど、(この店が)ネットでお勧めされていたから」と話す。満足した表情で帰って行った。
 タクオは、早速2人が教えてくれたキーワード「沖縄 美食」で検索してみた。すると、台湾人ブロガーがお勧めする沖縄の飲食店マップがでてきた。


遠く伊江島や海洋博記念公園などを見渡す庭先で写真を撮る韓国人の家族連れ=本部町

■絶景見ながらピザ
 本島北部は本部町山里。細い道を上がった先に人気のピザ屋があると聞き、先述の地図を頼りに訪ねた。「沖縄に来て、やんばるまで行ってピザ」。謎は深まるばかりだ。むちゃな案内をするカーナビにほんろうされながら、目的の店「花人逢(かじんほう)」にたどりついた。
 フロア担当者は「3年ほど前から急激に外国人が増えた」と話す。以前から県内に住む米国人らの来店はあったが、アジア向けのPRは特にしていなかったという。黄金週間明けの平日には、来店客の8~9割がアジア系を占めたといい「ここまで増えるとは思わなかった」と驚く。


「花人逢」で扇子に書かれた中国語でのメニューを楽しむ台湾人観光客=本部町

 メインのピザは一種類のみで、生地を作る際に国頭の天然水を使用して作ったこだわりの一品だ。ふっくら、もっちりとした生地に、たっぷりのせられたチーズがベストマッチ。
 料理と共に観光客を引きつけるのは、高台から望める伊江島や瀬底島などの景色だ。これらの写真がブログやソーシャルネットワークで発信され、口コミで広まったという。
 台湾から沖縄に訪れた温少瑜(おんしょうゆ)さん、柯羽馨(かうきょう)さんはネットで見た写真に「とてもいい景色だ」と感動し、来訪を決めた。「メニューも分かりやすい」と高評価だった。探偵中も、恋人や家族連れで「自撮り棒」などを使いながら写真を撮る人たちが絶えなかった。


数カ月前から予約を入れ、県産の豚、牛肉に舌鼓を打つ台湾人観光客=名護市の焼肉乃我那覇

■人気は「社長盛り」
 北部からもう一カ所、情報が寄せられたのが名護市宮里の「焼肉乃我那覇」本店だ。数年前に台湾向けガイドブックに広告を出したことがきっかけで少しずつ人が来始めた。来店客が料理の写真をネットで共有すると一気に評判が広まったという。あまりの人気に昨年、近くに新館を開設する勢いだ。
 注文の際にはスマートフォン(多機能携帯電話)を手にネット上の画像を見せる人もいるという。恐るべしインターネット。
 同店で中華圏の客から人気があるのはその名も「社長盛り」。県産和牛の希少部位やあぐー豚などを組み合わせた豪華セットで、お値段は1万4千円(税込み)と、こちらも社長向け。
 店側は「県産肉にこだわった料理を提供していきたい」と笑顔で話していた。
 なかなかシャープな店選びをする外国人たちに若干たじろぎながらも、異国でワッターウチナーを話題にしてくれていることに、ほのかな喜びも禁じ得ない。今度、ネットに中国語でヒージャー汁の店でも勧めてみようか、と考えを巡らせるタクオだった。