『沖縄と海兵隊』 日米同盟の口実暴く


社会
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『沖縄と海兵隊』屋良朝博、川名晋史、齊藤孝祐、野添文彬、山本章子著 旬報社・2916円

 著者らは、公開された日米の政府文書や議会資料などを用いて海兵隊の沖縄駐留を歴史的に検証し、日米同盟の口実を暴いた。

 前書きで、海兵隊の沖縄駐留をめぐる論争に回答を示すことを直接の目的にはしていないと断っている。海兵隊の伝統、米軍内での位置付け、過去、現在の戦争での役割、米国の政策、戦略の変化、ペンタゴンの官僚制度の力学や予算の権限を握っている議会との駆け引き、さらに駐留先の国やその周辺の国々との関係など、多くの要素が重層的に影響し合っているので資料を集めるだけでも困難を極める仕事だ。

 政府、議会、米軍、大学やシンクタンク、メディアなどによる海兵隊の戦史、組織、戦略論などの報告書や論文は数多く出されてはいる。著者らもそれを引用している。こういう仕事は下手をすると、「木を見て森を見ず」になりかねない。著者らは大胆にもそれに取り組み、人々の最大の関心事である「なぜ海兵隊は沖縄に駐留し続けたか」との疑問に答えている。

 この本をユニークにしているのは、沖縄の海兵隊に焦点を絞り、駐留先の住民との摩擦、反対運動を部隊の再編や配置に影響する要素として正面から取り上げ、分析している点である。

 1950年代の海兵隊の沖縄移転(山本章子)、60年代の海兵隊「撤退」計画(川名晋史)、70年代から80年代の在沖海兵隊の再編・強化(野添文彬)、ポスト冷戦と在沖海兵隊(屋良朝博)、在外基地再編をめぐる米国内政治とその戦略的波及(齊藤孝祐)の各章からなる。

 日本政府は、ジラード事件を機に第3海兵師団を含む米地上兵力の本土撤退を要請、結果的に海兵隊は日本本土から沖縄に移駐した。しかし、1995年の少女暴行事件以降、沖縄の住民感情や政治情勢は海兵隊駐留を拒む方向に動いている。ここでも海兵隊の居場所はなくなりつつある、と読者は感じるであろう。
(高嶺朝一・元新聞記者)

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 やら・ともひろ 1962年沖縄県生まれ、元沖縄タイムス記者。 かわな・しんじ 1979年北海道生まれ、平和・安全保障研究所客員研究員。 さいとう・こうすけ 1980年千葉県生まれ、横浜国立大学特任講師。 のぞえ・ふみあき 1984年滋賀県生まれ、沖縄国際大学法学部地域行政学科准教授。 やまもと・あきこ 1979年北海道生まれ、沖縄国際大学非常勤講師。

沖縄と海兵隊 駐留の歴史的展開
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