【島人の目】ニールおじさん


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 わが家の向かいに住むニールおじさんは今年85歳。気さくで温厚な人柄で、なかなかのロマンスグレー。消防局長を定年退職後、妻と世界各地を旅し悠々自適の穏やかな日々だったが、妻がアルツハイマーになり老々介護が始まった。

 ニールおじさんは毎朝夕、妻を連れて近所を散歩するのが日課になった。その2人が手を繋(つな)ぎ妻のゆっくりした歩行に合わせて歩く姿には、ほのぼのとした心温まるものがあり「夫婦の見本だね」と連れ合いと話したものだ。
 家事一切におむつ替え、お風呂に入れるのもニールおじさんの仕事。買い物だけは教会の人にお願いし妻を数時間見てもらった。経済的には施設に預ける余裕があるはずなのにニールおじさんは、妻の病気を受け入れ現実を悲しむのでもなく、泣き言を言うのでもなく、妻との日々を妻のために捧げる思いで淡々と時に任せていたように見えた。
 そして5年前に50年連れ添った妻を亡くした。9年間の介護の日々だった。先日ニールおじさんにどうして老人施設に入れないで1人で頑張ったのかと聞いてみた。
 「結婚した時、年老いて何があっても最後まで世話するとお互いに約束したから。何も大変じゃなかった」との答え。胸が熱くなった。今、1人暮らしのニールおじさんだが、毎日ジムに通い体を鍛え、家でもきちんとした身だしなみでおしゃれである。家もお掃除が行き届き、庭の手入れにも余念がない。そして、人が困っているとすぐに来てくれる。
 積雪の時は、毎回雪かき機で近所の一軒一軒のドライブウエーの除雪をしてくれたり、わが家の枯れつつある木の応急措置をしてくれたりと、さりげない親切で20年来何かにつけ世話になっている。
 老後をどのように生き、また夫婦はどうあるべきかを教えてくれている尊敬すべきすてきなおじさまだ。
(鈴木多美子、米バージニア通信員)