『日本の対中国関与外交政策』 「開発援助」の実態


社会
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『日本の対中国関与外交政策』高嶺司著 明石書店・3888円

 「世界第2位の経済大国である中国に、なぜ日本が経済支援をしなくてはならないのか?」このような疑問を持つ人は多いのではないだろうか。実際に、2015年度の日本の対中援助実績は、無償資金協力で約332万ドル、有償で約1億230万1200ドルとなっている。本書『日本の対中国関与外交政策 開発援助からみた日中関係』は、この一見不可思議な日中関係について開発援助の視点から日本の対中「関与外交政策」の枠組みを用いて読み解いていく。

 日本の対中開発援助に関する既存の研究は数多いが、その実態を十分に捉えているとは言い難い。では著者はどのように対中開発援助を捉えているか。特に第4章では豊富な外交文書や統計、そして直接または間接的に政策決定に関わった政治家や中央省庁官僚、ジャーナリストらへの詳しいインタビュー結果を活用し、日本政府が中国に対し積極的に行ってきた「関与外交政策」の一環としての開発援助の姿を浮き彫りにしている。

 日本の対中開発援助政策は、「熱」と「冷」の間を動き続ける二国間関係において、ある時は中国との相互依存を推進したり、またある時は中国の行動について抗議する手段であったりと、本書の言葉を借りれば「スタビライザー(安全装置)」として動き続けているのである。これを失えば、関与を通じて均衡を保っている日本の対中関係はあっという間に崩れるであろうことは想像に難くない。

 共に長く海外在住経験を持つ著者と私との交流は、10年以上前のオーストラリア・キャンベラの学会から始まった。海外で日本政治を研究する者の中には、「日本外交は対症療法的な『周章狼狽(しゅうしょうろうばい)外交』だ」と口にする人も多い。しかし戦後日本の開発援助政策に注目すると、激動の国際政治を背景に、冷静な計算の上で周到な行動をする日本政府の動きが見えてくる。本書は、著者自身の豊かな国際感覚と多様な研究手法を用い、中国に対し日本政府が行ってきたしたたかで積極的な外交、そして表層的批判に隠れがちな奥深い日中関係を明らかにした。 (名波彰子・広島修道大学法学部国際政治学科教授)

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 たかみね・つかさ 1966年、沖縄県出身。琉球大学法文学部卒、オーストラリア・マードック大学大学院博士課程修了。名桜大学大学院国際文化研究科教授。

日本の対中国関与外交政策――開発援助からみた日中関係
高嶺 司
明石書店 (2016-03-30)
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