『沖縄自立と東アジア共同体』 パラダイムの転換


社会
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『沖縄自立と東アジア共同体』進藤榮一、木村朗 共編 花伝社・2160円

 問われるべきは「沖縄問題」ではなく、沖縄に犠牲を強い続ける「日本問題」であり、世界最大級の基地を極東の小さな島に置き続ける「米国問題」である。本書の編者の一人である筑波大名誉教授の進藤榮一氏は、そう指摘する。日本のために沖縄が存在するのではない。それでは沖縄が、沖縄として自立するためにはどうすればよいだろうか。本書では「沖縄問題」に真正面から取り組んできた政治家や研究者、メディア関係者、市民運動家、作家ら28人が、それぞれの視点から沖縄の将来を見据えた議論を展開する。

 このうち筆頭論文では、元首相の鳩山由紀夫氏が、官僚や米国の抵抗で挫折したものの、東アジア共同体構想こそ、周辺諸国と対話し協調する最も有効な手段であると説く。鳩山氏は右派メディアから、「宇宙人」と揶揄(やゆ)される。しかし本書では、沖縄でいまなお放置された遺骨収集を手伝い、中国や韓国で率直に謝罪する「人間的」な心情が吐露されている。そのうえで、EU会議に相当する東アジア共同体会議を沖縄に創設するよう提案している。

 もう一人の編者である鹿児島大教授の木村朗氏は、鳩山政権のアジアビジョンを丹念にたどりながら、東アジア共同体構想の有効性を確認するとともに、アジア利権を守りたい米側の思惑を明らかにすることで、鳩山氏の論考を客観的に担保している。アジアとの連携を阻もうと自民党政権があおる「中国脅威論」については、ジャーナリストの高野孟氏がその虚妄性を具体的に指摘し反駁(はんばく)する。元県知事の太田昌秀氏は、アジア人としての共通の基盤作りを訴える。琉球新報記者の新垣毅氏は琉球王国以来の歴史を踏まえ、沖縄が平和の要になるためには自己決定権行使が不可欠だと考える。沖縄国際大教授の前泊博盛氏は、そのための経済的環境も整っていることを実証的に明らかにしている。

 東アジア共同体構想は、日本の国際関係をめぐるパラダイムの転換である。沖縄が背負わされてきたネガの歴史をポジに転換する力が、そこにある。
(中村尚樹・ジャーナリスト)

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 しんどう・えいいち 1939年、北海道帯広市出身。筑波大学名誉教授、国際アジア共同体学会会長、東アジア共同体評議会副議長など。

 きむら・あきら 1954年、北九州市出身。鹿児島大学法文学部教授。日本平和学会理事、国際アジア共同体学会常務理事。

沖縄自立と東アジア共同体
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