『「基地の島」沖縄が問う』 矛盾やすれ違い提起


社会
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『「基地の島」沖縄が問う』沖縄国際大学沖縄法政研究所編 琉球新報社・1080円

 《琉球処分と同じくらい深い傷を残すかもしれない》-。

 戦後68年の2013年暮れ、両親が沖縄出身のノンフィクション作家は、私の取材にこう語った。当時の自民党幹事長が、米軍普天間飛行場の県内移設容認に転じた県選出国会議員5人を横に並べ、会見した直後のことだ。間もなく、当時の仲井真弘多知事は国による辺野古への埋め立て申請を承認した。

 あれから2年半。作家の言葉に沿えば、沖縄の歴史に「深い傷」が残された。そして、傷はいまも、えぐられ続けている。そうした日々の沖縄で、15年末から翌年2月にかけて、県内外の学者や市民運動家、経営者ら多彩な顔ぶれが「沖縄の未来のために」論じ合ったシンポジウムや講演会の記録が本書だ。

 近年になって浮上し、直面するテーマが中心。「沖縄内部でも、ヤマトでも、苦痛や葛藤を引き起こす」(本書より)ものが少なくなく、使い古された問題設定に新たな思考を迫る。

 例えば、15年に本土で動き出した「基地の引き取り運動」。1953年にコザで生まれ、1歳で大阪に移住した男性は、引き取り運動が、安倍政権にも、平和運動にも、拒絶反応をもたらしていると紹介。「沖縄に基地を押しつけていることを自覚しないまま、沖縄との連帯、基地撤去運動をしてもどこか本質からずれていく」と、戦後日本の平和主義の矛盾を突く。

 先島への自衛隊配備では、防衛問題に詳しい新聞記者が、「島おこし」のために誘致に走る地元と、政府の思惑のすれ違いを端的に浮かび上がらせる。

 本書に登場する論者は、普天間の県内移設に不同意の人たちだが、議論は論理やファクトが重視され、法律の専門家も、埋め立て承認と和解の意味・展望について、国と県、双方の主張の限界を論じている。

 こうした問題提起に対し異なる立場からの反論や提言がなされ、深い対話につながってほしい。そして、本書のような議論が全国ではなく、一地域に限って深められている異常さも指摘しておきたい。
 (木村司・朝日新聞社会部記者、「知る沖縄」著者)

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 「基地の島」沖縄が問う 沖縄国際大学沖縄法政研究所主催「戦後70年連続企画」の第1弾として、2015年12月に開かれたシンポジウムのタイトル。