『図書館ノート』 硬軟の話題、平易な言葉で


社会
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『図書館ノート』山口真也著 教育史料出版会・1836円

 学生の頃の先生とのやりとりは、講義中よりもふとした雑談の方が記憶に残っています。社会や政治、趣味に思い出、家族のことを語る先生の言葉は、これまで読んできた本や積み上げてきた思考に裏打ちされたものであり、緩い雰囲気ながらも響くものがありました。また、自分で専門書を開いて見るよりも、居酒屋で研究者たちのおしゃべりを聞いている方がよほど勉強になると感じたこともあります。

 本書は、沖縄国際大学で教べんをとる山口真也教授が、図書館専門誌に連載していたエッセーをまとめたものです。大学教授に専門誌と何やら敷居の高そうなフレーズが並びましたが、あくまでも身辺雑記なので、気軽に気になった所から、講義と違って著者と雑談するような気安さで読み進められます。

 いささか小難しい「図書館の自由」や人権・プライバシーをめぐる問題、連続児童殺傷事件の加害男性が出版した『絶歌(ぜっか)』や、『アンネの日記』破損事件といった社会的に話題になったもの、LGBTや自殺、沖縄の米軍基地についても取りあげていますが、そこに上から教え諭すとか持論を声高に主張するような態度はありません。図書館を研究する者として、一人の利用者として、あるいは大学で働き、学生を指導し社会に送り出す立場や沖縄で生活する者として、見聞きし、気付き考え、時に葛藤し悩むさまが等身大の言葉で語られています。一方、平易な語り口といえども図書館学の視点と知見に支えられているゆえに、読み応えは十分にあります。

 多様な切り口で語られるそれぞれの話題は、多くの読者を呼び込みます。図書館で働く者にとっては業務に生かせる情報や知識、少々耳の痛い指摘を受け取るでしょうし、利用者としては図書館の裏側を垣間見つつより楽しく便利に使う方法を発見するでしょう。普段図書館に関心のない向きでも、社会的な問題を読み解くヒントや、略語の読み方を考え続けるといったマニアックな世界を味わうことができるでしょう。
 (野里純・那覇市立城北中図書館司書)

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 やまぐち・しんや 1974年、鹿児島県生まれ。図書館情報大学大学院修士課程修了。2013年から沖縄国際大学教授。14年度から日本図書館協会図書館の自由委員会委員を務める。

図書館ノート―沖縄から「図書館の自由」を考える
山口 真也
教育史料出版会
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