『消えゆく沖縄』 未来への警鐘示す“遺言”


社会
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『消えゆく沖縄』仲村清司著 光文社・842円

 沖縄社会の現状と矛盾を考える上で、刺激と示唆に富むエッセーである。筆者は大阪生まれの沖縄人2世であり、副題が示すように、那覇市に移住して20年を機に、自らのルーツである沖縄への想いと「失意」について個人史を中心につづる。

 この失意にまつわるさまざまなエピソードは、生粋の沖縄人にとっては少々耳の痛い話かもしれないが、多少なりとも沖縄を知る私のような内地人にとっては、沖縄に対する罪悪感や違和感の源泉を知る手掛かりとなる。沖縄をさほど知らない人にとっては、本書は沖縄社会の多様性や複雑性を知る端緒になるだろう。

 著者は本書をあえて「遺言」と呼ぶが、沖縄の現在と未来に対する著者なりの「警鐘」だと私は解釈したい。筆者が移住した1996年は、少女の事件とその後の普天間基地移設問題によって沖縄の政治が大きく転回していく時期であり、経済・文化的には21世紀に到来する沖縄ブームの黎明(れいめい)期にあたる。著者はこうした激動の20年を、那覇市での移住生活と沖縄各地での実体験に基づき、沖縄自身による乱開発と環境破壊、共同体の崩壊、信仰の形骸化として捉える。米軍基地問題をめぐり、沖縄と本土の関係が悪化していく中で、著者が探し求めてきた沖縄社会の基層が沖縄人の手によって切り崩されていく様に著者は「疲れてしまった」という。

 本土生まれの沖縄人移住者という「二重の立ち位置」ゆえに、著者は沖縄社会の豊かさを支えてきた自然と習俗を丹念に描き出せるのであろうし、だからこそ現実の沖縄社会の急激な変質に失意するのかもしれない。それは沖縄への報われなかった「片想い」のようにも聞こえる。しかし、戦後の沖縄を研究する私も近年の沖縄社会の変貌に対して著者と同様の違和感を覚えてきたし、著者の沖縄県政の評価には納得できる部分が多々ある。辺野古や高江の米軍基地建設に衆目が集まる中、本書のように、沖縄自身がこれまで何を失ってきたかを考えることは、沖縄の未来を構想する上で不可欠のステップに違いない。(山崎孝史・大阪市立大学教授)

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 なかむら・きよし 1958年、大阪市生まれの沖縄2世。作家、沖縄大学客員教授。96年、那覇市に移住。著書に「本音の沖縄問題」「ほんとうは怖い沖縄」など。

※注:山崎孝史教授の「崎」は、「大」が「立」の下の横棒なし

消えゆく沖縄 移住生活20年の光と影 (光文社新書)
仲村 清司
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