『おきなわ湧き水紀行』 継承したい命の源泉


社会
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『おきなわ湧き水紀行』ぐしともこ著 ボーダーインク・1728円

 青い海や希少な生き物たちが住む自然、そして先祖から受け継がれてきた島くとぅば。次世代に継承したい沖縄の宝は多いが、本書を読むと「湧き水」もその一つだと感じる。

 著者のぐしともこさんは、かつてラジオ沖縄で放送していた夕暮れ時の番組「多良川うちなぁ湧き水紀行」のパーソナリティーとして活躍し、当時大学生だった私はラジオを通じて聞こえてくる水の音と、優しい語りに癒されて帰路についていた。ぐしさんが番組を担当した10年間の取材や湧き水の虜(とりこ)となった自身の、多角的な調査に基づいて執筆した本書は、県内に分布する湧き水の輪郭や歴史を細やかに伝えると同時に、命の水を介して交流する地域の人々の表情をつづっている。

 読んでいると、こんこんと湧く水の流れが聞こえてくるようで、心地よさとともにページをめくる。驚くのは県内に湧水が多いこと。「環境省が全国の都道府県・市町村を対象に平成26年度に実施した調査によると県の湧水把握件数は939件で、全国で4番目に多い」。さらに「この数字は解答のあった市町村のみで、沖縄県内では約半分の市町村のデータが反映されておらず、その数を加えると1000をゆうに越えると推測される」という。本書では宮古島や伊平屋島などの島々を含め、厳選された30の源泉が紹介されており、地域との関わりを描写した場面は人々の息遣いが聞こえてくるようだ。

 湧き水を介してもたらされる会話や笑顔、その描写は楽しいエッセーを読んでいるよう。各地の湧水=ヒージャー、カーへの道中に読者が迷わないよう、詳細な地図も盛り込まれているのは、思いやりあふれる著者の人柄を表している。本書の魅力は湧水の紹介にとどまらず、忘れてしまったふるさとのぬくもりに触れることができるところ。読んでいたら、祖父母や両親の顔が浮かんだ。我が故郷の糸満市の嘉手志ガーが紹介されているのもうれしい。湧き水とは命の源でありながら、家族のように身近な場所。あなたはどの泉に惹(ひ)かれるだろうか。

 (金城奈々絵・ラジオ沖縄アナウンサー)

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 ぐし・ともこ 那覇市出身、浦添市在住。1998~2008年、ラジオ沖縄で「多良川うちなぁ湧き水紀行」のパーソナリティーを務めた。10年に「湧き水fun倶楽部」を結成、代表として活動中。

おきなわ湧き水紀行―散策・樋川と井戸
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