『移行する沖縄の教員世界』 近代教育実像を丹念に解明


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『移行する沖縄の教員世界』藤澤健一編 不二出版・4320円

 本書は、1940年代50年代を対象に、奄美・先島を含めて沖縄全体の学校教員についての数量、教育会・教職員会などの教員組織、3人の個人例を明らかにするものだ。

 沖縄近代教育を研究する際の大きな難関は、史料不足・欠如であるが、著者たちは、丹念な調査によって、この時期の学校教員の実像に迫る作業を展開した。例えば、戦前からの教員が戦後も継続して勤務していたが、「戦前教員から戦後教員へと人的構成上の比重が移行した1950年代なかばという、非制度的な領域に属する不可視の境界こそが事実上の断絶をなしたとみなせる」ことを明らかにしている。

 この文の中の「断絶」は「連続」と並んで、本書のキーワードともなっている。そして、総括的に「沖縄における教員史の展開は沖縄戦を契機として単純に区分できない連続性をもつ」と指摘する。と同時に、連続断絶に関わりのある戦争責任の問題が前面にでてこない状況についても触れている。

 それらは米軍統治との関わりも大きいが、「占領の安定化を一義的な目的とした、戦前期における機構と人的構成のなし崩し的な利用と市民的自由の抑圧が同時に進行」という指摘が注目されよう。米軍統治は、沖縄の教育制度や動向に対して、外的な管理という性格が強く、戦前における日本政府の施策が教育実践内部に分け入って直接的に展開したのと対照的といえよう。

 このように、この時期の沖縄教員動向を深く丁寧に解明する書といえよう。それだけに、今後の研究展開への大きな期待が膨らむ。学校組織や教員の特性、教育実践の特性、教員の社会的位置、教育界の継続性と変化、さらには批判的ないしはオルタナティブな動向の検討も期待されよう。その点では、個人例についての記述に示唆する点もあり、教育界の構造的な継承と変化についての検討が待たれる。

 なお、本書の執筆者は、沖縄出身者でも沖縄在住者でもないが、現在の沖縄教育の当事者が本書の提起をどう受け止めていくのかにも注目したい。

(浅野誠・フリー研究者)

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 ふじさわ・けんいち 福岡県立大教員。「移行する沖縄の教員世界」の執筆者は他に近藤健一郎氏(北海道大教員)、櫻澤誠氏(大阪教育大教員)、高橋順子氏(日本女子大非常勤講師)、田中萌葵氏(北海道大院生)、戸邉秀明氏(東京経済大教員)。

移行する沖縄の教員世界―戦時体制から米軍占領下へ
藤澤 健一
不二出版
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