『歴史認識と民主主義深化の社会学』 戦後捉え直し、未来示す


社会
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『歴史認識と民主主義深化の社会学』庄司興吉編著 東信堂・4536円

 本書は、講座現代社会学(青木書店、1965年)と現代社会学辞典(有信堂、1984年)などの編者を務め、長くマルクス主義社会学をリードし、2014年に逝去した故北川隆吉をしのんで、彼とゆかりのあった社会学者など13人の寄稿によって編まれた論文集である。

 とはいえ、いわゆる追悼論集の類いではなく、北川の業績も含めて、戦後日本社会学の到達水準を批判的にとらえ直し、それを踏まえてこれから進むべき途を示そうとした意欲的な本である。

 各章の論題は、民主主義と社会学、社会運動、共同体・地域・企業の変貌、沖縄・アジア諸国に対する反省と貢献、日本から世界への国際意識と歴史認識の提起と、多岐にわたる。ここで本文350ページに及ぶ全ての論文の内容を紹介する余裕はないので、沖縄について言及した2つの論文に関して触れておこう。

 高橋明善は、差別と権力による抑圧を受けてきた沖縄における公共性は、人々の共同体やアイデンティティーからの解放ではなく、むしろこれらを根源として立ち上がってくるのではないかという、極めて重要な問題提起を行っている。また、北欧の島嶼(とうしょ)社会との比較も交えて古城利明が提示する、民族ではなく主権者としての沖縄の独立・自治・自己決定への展望にも耳を傾けたい。

 ところで、著者の一人副田義也が振り返っているように、マルクス主義社会学は80年代以降、当初依拠していた19世紀由来の史的唯物論から脱却し、現代化を模索してきた(それをマルクス主義社会学の解体とよぶ論者もいる)。というのも、産業の高度化に伴う中間階級の増大に加え、性、民族、環境、福祉といった、階級以外の分配現象が新たに問題意識に上ってきたからであった。

 もちろん、旧ソ連・東欧諸国の社会主義体制の崩壊も大きく影響していよう。その意味で、かつて北川と近しい学問的関係にあった社会学者たちが、どのように現代日本社会を分析・診断し、未来への処方箋を書くのかといった視点で本書を読むのもよい。

 (安藤由美、琉球大法文学部教授)

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 しょうじ・こうきち 東京大学名誉教授。東大大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。「世界へのメッセージ」編集委員会を起こし、日本の社会学・社会福祉学の発信に努める。

歴史認識と民主主義深化の社会学
庄司 興吉
東信堂
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