13日に沖縄県北谷町で発生した米海軍兵による日本人女性殺害事件で、エリック・スミス在沖米四軍調整官らが沖縄県庁を訪れ、玉城デニー知事に「在沖米軍人に対する責任は全て私にある」(スミス四軍調整官)と謝罪した。2017年の東村高江での米軍ヘリ炎上事故、今年3月の嘉手納基地でのパラシュート降下訓練などでは県の呼び出しに応じなかったが、事態を重くみて迅速に対応した。凶悪事件による在沖米軍への県民感情が悪化するのを恐れ、沈静化を図ろうとする思惑も透ける。
米軍は事件事故防止のために「リバティー制度」と呼ばれる深夜外出や飲酒の規制を導入しているが、今年2月には日本側当局に通知することなく緩和した。スミス四軍調整官は「沖縄の滞在を楽しんで」と兵士にメッセージを発信していた。
玉城知事は制度緩和に対する懸念を表明したが、見直しや具体的な再発防止策についての言及はなく、海兵隊は面談から約4時間後に「リバティー制度と(事件は)関係ない」と発表した。規制緩和に踏み切った判断に誤りがなかったことを宣言し、責任を追及される事態を避けた格好だ。
「先ほど知事に話したことが全てだ。何も話すことはない」。玉城知事との面談後、リバティー制度の見直しについて記者団に問われたスミス四軍調整官は足早に県庁を後にした。
2012年に本島中部で発生した米海軍兵による集団女性暴行致傷事件を受け、米軍は事件事故防止のために「リバティー制度」と呼ばれる深夜外出や飲酒の規制を導入。14年12月に規制を大幅に緩和した後、16年には那覇市で女性暴行事件、うるま市で米軍属女性暴行殺人事件が発生したが、スミス四軍調整官はさらに規制を緩和した。
こうした対応に、玉城知事は「リバティー制度が緩和された後に起きた事件だ。緩和について県民は非常に不安に感じている」と厳しい表情で訴えた。
玉城知事と謝花喜一郎副知事は日米の関係機関トップへの抗議で、リバティー制度の一方的な緩和に言い及ぶ際、特に口調を強めた。謝花副知事は自身が公室長時代に出席していた「米軍人・軍属等による事件・事故防止のための協力ワーキング・チーム」(CWT)に触れ「CWTでも緩和の見直しを含めて議論されるべきだ」と訴えた。
外務省沖縄事務所が事務局を務めるCWTは慣例で毎年開かれていたが、18年度は開催されなかった。関係者によると、米側の日程調整が付かなかったことが理由という。米軍人の事件事故を抑止する目的で発足したが、機能せずに枠組み自体が形骸化していることが浮き彫りになった。
次回のCWTは4月中に開催される見通しで、今回の事件を受けてリバティー制度緩和の検証が議題に上がるとみられる。ただ米軍は事件の重要な鍵となる被疑者の情報について氏名以外は伏せたままリバティー制度緩和との関連を否定しており、「まずは情報収集に力を入れたい」(県幹部)と望む地元関係者の意向が尊重されない可能性が高い。
県幹部は規制緩和の経緯を振り返り「この件は頭に来ていた」と顔をしかめる。その上で「緩和の際に議論できていないから、今回のように事件が発生した場合、制度との関連がどうなっているのか検証しづらい」と声を落とした。(明真南斗、松堂秀樹)