『うたのチカラ』JASRAC創立75周年記念事業実行委員会著


社会
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大衆歌謡と時代

 戦後日本の大衆歌謡と時代との関わりを、集計データとアーティストたちの証言をもとに報告した。類書が多々ある中で、日本の音楽著作権を一手に管理するジャスラックがまとめたところに意味がある。

 主軸は、演歌、松田聖子、J-POP、アニメソング、初音ミクなど時代をかたどるテーマごとに考察したコラムだが、13のヒット曲の歌詞をすべて転載し、作詞家や作曲家、歌手に創作のエピソードを聞いた章こそジャスラックならではの企画だろう。
 アニメ『鉄腕アトム』の主題歌は高井達雄が電車内の15分間でメロディーを作り、谷川俊太郎が後から詩を付けた。1カ所「やさしい心」がメロディーに乗らない。高井が電話で伝えると、谷川はしばらく考えて「心やさしい」を提案したという。
 石川さゆりの『天城越え』。作詞家の吉岡治は冒頭4行の歌詞に「し」という音を4回繰り返し、エロスの極みである「死」を暗示したとか。
 1982~2013年度の分配累計額(つまりこの32年間でどれだけ儲けたか)ベスト35作品の一覧表をぼんやり眺めているだけも面白い。
 1位『世界に一つだけの花』に続いて、2位『居酒屋』、3位『ふたりの大阪』と演歌が意外と健闘している。カラオケで歌い継がれているためだが、デュエット曲が多いのは「スナック文化が地方に根付いているからではないか」との仮説が示される。海外で多く使われた楽曲が軒並みアニメ曲というのもご時世だ。
 中身は盛りだくさんの400ページ超。かなりおトク感がある。
 (集英社 2000円+税)=片岡義博
(共同通信)
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片岡義博のプロフィル
 かたおか・よしひろ 1962年生まれ。共同通信社文化部記者を経て2007年フリーに。共著に『明日がわかるキーワード年表』。日本の伝統文化の奥深さに驚嘆する日々。歳とったのかな。たかが本、されど本。そのあわいを楽しむレビューをめざし、いざ!

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