<金口木舌>介護者の心を癒やす本との出会い


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 認知症は小さな変化から始まった。27年前、祖母が繰り返し食事を要求するようになった。認知症への社会の関心は低く、他界まで6年余、進む症状に家族の負担は増した

▼現在、県内の認知症高齢者は3万人余。65歳以上の約17%に上る。専門のサポート医は10人、かかりつけ医の研修終了者は242人と年々増え、行政支援や介護サービスに力が注がれる
▼昔も今も変わらないのは、介護する家族の苦悩だろう。「親しい者にほどひどい症状を示す」特有の言動は一層の心労に。理解し難い行為を抑えようとすれば「戦い」に近い感情も芽生える
▼老い方はそれぞれ―と介護者を前向きにしてくれるエッセーに出合った。岡野雄一著「ペコロスの母に会いに行く」。62歳の漫画家がグループホームで暮らす認知症の89歳の母を描く
▼他界した夫や少女時代の友人と“会話”する母。切ない場面もユーモアであふれ、温かい日差しのように介護者の心を癒やしてくれる。著者は「忘れることは悪いことばかりではない」と語る。来年秋、映画も公開予定で共感がより広がろう
▼国は来年度から認知症対策で、住み慣れた地域で暮らす在宅ケアを強化する。医療機関の整備はもとより、お年寄りや介護者に寄り添う周辺の環境、これをしっかり受け止め包み込む地域力をどう構築するか。在宅介護の進化へ試行錯誤は続く。