慢性的な乗務員不足を背景にした路線バスの減便が、定時制高校生の帰宅などに影響を広げている。最終便の繰り上げや運行本数の減少でしわ寄せを受けるのは、自家用車などの代替手段のない学生や高齢者といった交通弱者だ。
公共交通を後退させてはいけない。まずは乗務員の待遇改善が不可欠だ。その上で、望ましい交通体系や公共の福祉などの面から公共交通の利用について議論を急ぎたい。
近年、沖縄本島の路線バス4社が相次いで運行本数を減らした。10月からのダイヤでも減便があり、土日祝日の便数減や最終便の時間が早まる影響が出ている。
県教育委員会は9月、県バス協会に増便への協力を要請した。バスの減便で最終便が繰り上げられ、県立高校定時制に通う一部の生徒が帰宅時に交通手段を確保できない事態が起きているためだ。
帰宅に影響を受ける生徒は県教委の調査で3校の10人。保護者による送迎が難しい生徒には、学校が早退を許可したり時間割を早めたりする対応を取っているという。
玉城デニー知事は、公約である中高生のバス通学無料化を2020年度中に導入する方針だ。しかし、肝心のバス通学が縮小すれば政策の効果は損なわれる。減便で教育機会の保障が脅かされていることを、深刻に受け止めなくてはいけない。
バス乗務員は全国的に高齢化が顕著だ。県内4社の運転手の定年退職者は17~19年の3年で約300人に上る。貸し切りバスなどへの人材流出も加わり、転職・退職者を穴埋めできず運行本数を削らざるを得なくなっている。
乗務員の確保に必要な待遇改善を実現するには、利用を伸ばして経営を安定させるしかない。多くの人がより利用しやすい路線の構築やサービス向上など、事業者自らの努力が何より求められる。
一方で、公共交通機関である以上、行政のバックアップも必要だ。沖縄都市モノレールの浦添延長が実現したが、県内のほぼ全域をカバーするバスが県民の「足」であることに変わりはない。
県は県議会9月定例会に路線バス運転手確保緊急支援事業として1116万円余を提案している。社内研修期間の賃金支援などに充てる。
県内の乗合バスの輸送人員は1980年代に年間7千万人だったのが、2017年度は2674万人に落ち込んだ。それでも近年は「わったーバス党」など官民一体による利用促進の取り組みもあり、下げ止まりが見られる。
自分で運転せずにバスを利用すれば、交通事故を起こす心配もないし乗車中に読書をしたり、スマホで情報を入手したりする余裕が生まれる。マイカー利用の抑制は交通渋滞の緩和につながり、地球温暖化ガスの削減にも貢献する。バスを利用するメリットは計り知れない。バスの良さに目を向けることも大切だ。