<社説>あすから新聞週間 信頼の確立へ努力したい


社会
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 日本新聞協会が定める新聞週間が15日から始まる。私たちが報道の使命と責任を自省・自戒するとともに、広く一般に報道の機能と役割を再確認してもらう機会である。

 新聞社や放送局などでつくるマスコミ倫理懇談会の全国大会が9月中旬、高知市であった。「伝えるのは、何のため、誰のため」をメインテーマに、実名・匿名報道や災害報道、皇室報道、ネットの自由と著作権の問題など、さまざまな分野で議論を深めた。
 実名・匿名報道の議論で取り上げられたのは、7月に起きた京都アニメーション放火殺人事件だった。死者36人という被害を出した同事件では、京都府警が実名拒否の遺族の意向に言及したことの是非が問われた。一方で犠牲者の実名報道にインターネットなどで強い批判が上がった。
 本紙を含む報道機関の多くは事件・事故の報道で実名を原則にしている。現実を的確に伝え、社会の教訓として記録するためにも実名が必要だと判断しているからだ。
 日本新聞協会は実名報道について「匿名と比べ、読者、視聴者への強い訴求力を持ち、事実の重みを伝える」との見解を示している。実名は事実の核心であり取材の起点となる。真実性を担保し、社会全体で当事者の悲しみや怒りを共有していく上でも大切な要素だ。権力の不正追及でも実名は不可欠だと考える。
 ただメディアの一斉取材や報道で被害者や家族らが精神的苦痛を受け、日常生活にも悪影響が及ぶ事例が何度も指摘されてきた。近年はネット上での2次被害も強く懸念されている。私たちには当然こうした批判と向き合い、問題を解決していく責務がある。
 事件・事故報道では匿名とする場合ももちろんある。本紙は内容やプライバシーへの配慮、社会的影響などを勘案し事案ごとに判断している。
 ただ容疑者も逮捕前は匿名にするなど刑事手続きに沿った報道ルールがある一方で、犠牲者を原則実名としていることに疑問や批判が寄せられることもある。日々の報道への十分な説明や理解を得る努力が不足していると痛感させられることも少なくない。
 京アニ事件報道で地元メディアは遺族への集団的過熱取材(メディアスクラム)を避けるための取材手順を決めるなどの基準づくりに取り組んだ。京都新聞は現場の記者たちが報道批判に苦悩しながら、遺族に寄り添おうと葛藤する状況を記事で紹介した。本紙もその真摯(しんし)な姿勢に学び、議論を深めたい。
 求められるのは、国民の知る権利に応えつつ書かれる側の人権とどう調和させるかだ。そのためにも報道機関に対する信頼の確立に向けて一層努力する必要がある。言論・表現の自由が危ぶまれる出来事が国内外で頻発する今だからこそ、私たちの役割と社会的責任を再認識し、謙虚さを保ちつつ読者と歩んでいく決意を新たにしたい。