<社説>知事訪米 米を動かす戦略と行動を


社会
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 就任後2度目となる玉城デニー知事の訪米日程が終了した。米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に反対する沖縄の民意を米政府当局者や連邦議会議員に訴えた。新基地阻止の公約実現には、継続的で重層的な取り組みが重要だ。

 今回県が重視したのは、米国防予算の大枠を決める2020会計年度(19年10月~20年9月)の国防権限法案の成立を前に、法案を審議する上下両院の関係議員に直接働き掛けることだった。
 国防権限法案は夏に両院でそれぞれ可決されたが、上院案は「沖縄、グアム、ハワイ、オーストラリアなどの米軍の配備計画を国防長官は再調査すべきだ」と明記し、地域住民の政治的支持なども検証するよう求めている。
 下院案にはこうした記述はない。法案が両院で異なる場合は両院協議会で審議することになっている。今回知事は10議員と会い、うち協議会メンバーである4人には辺野古移設の見直し条項を法案に盛り込むことなどを訴えた。
 複数の議員が辺野古の埋め立て予定海域の軟弱地盤や完成後の維持管理コストなどを調査したいとの見解を示したという。日米両政府に建設計画の見直しを迫っていくために、まずは知事として最低限の成果だと言えるだろう。
 一方で国務省、国防総省の担当者は移設推進の見解を改めて示した。議員からも「日本政府に話すべきだ」と突き放すような返答もあったというが、知事は「基地を建設しているのは日本政府だが、使用するのは米軍だ。当事者として問題に向き合ってほしい」と米側に反論したという。
 当然の対応だ。民主主義や人権などの価値観を掲げる世界のリーダーであるなら、戦後74年も米軍駐留の重圧に苦しむ沖縄の訴えを放置することはできないはずだ。民意を無視する日本政府に見直しを強く促すべき立場にあると自覚してもらう必要がある。
 国防権限法は11月中旬ごろにまとまるとみられるが、辺野古移設見直しが明記される見通しは立っていない。知事は「今回間に合わなくても来年以降もアプローチは可能ではないか」と手応えを述べたが、多額の出費を伴う訪米であり、着実に成果に結び付けなければならない。
 米軍がアジア太平洋地域への配備を目指す地上発射型中距離弾道ミサイルについて、国防総省は沖縄への配備計画は「今のところない」と答えたが「開発には時間がかかる。今の段階でどこに配備するかを発表できる段階ではない」とも説明した。引き続き警戒する必要がある。
 日米外交に影響力を持つ米関係者はごく限られるが、日本政府の情報と資金が常に提供されているとの指摘がある。日米安保の見直しにも言及するトランプ政権下で沖縄はどう発信力を高めるか。国際世論への訴えと併せて、新たな戦略と粘り強い行動が県政に今こそ求められている。