<社説>即位礼で恩赦実施 時代に即し見直すべきだ


社会
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 政府は22日、政令恩赦「復権令」を公布、即日施行した。行政が、裁判で確定した刑罰の内容を変更させたり、消滅させたりする恩赦は、行政権の司法権への介入、越権ともいえ、権力分立の確立された時代にそぐわない。今後は見直しが必要だ。

 恩赦は、古くは皇室や国家の慶弔時に天皇の恩恵的行為として実施された。明治憲法下では天皇の大権事項だった。
 罪を許す絶対権力者のありがたみが強調され、統治の仕組みとして機能したとされる。現代の国民主権、民主主義の観点から考えてもふさわしくないのは明らかだ。
 政府は「即位礼という慶事をきっかけとして国民が心を新たにする機会に、罪を犯した人の改善更生の意欲を高めさせる」と説明する。
 恩赦によって罪を犯した人の更生意欲が高まる効果は否定しない。個別の事情で恩赦をするか否かを決める個別恩赦は年間数十件認められている。これをきっかけに励みになったとする当事者の声があるのも事実だ。
 恩赦法では、こうした個別恩赦、それに政令恩赦の二つを規定している。
 問題なのは、対象となる罪や刑の種類を決め、一律に実施される政令恩赦だ。罪を犯した人の反省や更生の程度など個々の事情が考慮されることはなく、被害者の声も聞かれることがない。
 今回の政令恩赦は刑事事件で罰金刑となり、2016年10月21日までに納付を済ませた人が対象だ。約55万人に上ると見込まれる。自動的に制限されていた資格が手続きの必要もなく回復した。
 約8割が交通事故関係だ。公職選挙法の違反者約430人も含まれており、公民権が回復した。
 医師法や調理師法などは罰金以上の刑を受けた場合は免許を与えないことがあるなどと規定する。復権により、こうした制限が解かれ、再取得が可能となった。
 今回の復権には罰金刑がある暴行・傷害、窃盗のほか、痴漢や盗撮など性犯罪も含まれる。被害者団体からは「性犯罪者は認知行動療法など専門のプログラムを受けなければ更生は難しい」との指摘がある。一律の政令恩赦の効果には否定的な意見も多い。
 まして偶然に「即位礼正殿の儀」の時期に重なり恩恵を受ける者と、そうでない者との不公平感は拭いようもない。
 今回の政令恩赦では有罪判決や起訴がなかったことになる大赦、刑を軽くする減刑は実施されていない。政府は被害者側に配慮し過去に比べて規模を縮小したとする。1993年以来、26年ぶりの恩赦だが、現代において「大権」を振りかざす意義はあるのか。
 更生意欲を高めるならば、むしろ中央更生保護審査会が個別の事情を審査する個別恩赦の一つである常時恩赦を手厚くすれば済む話だ。これを超えて実施する意義は見いだせない。