<社説>映画助成金取り消し 文化芸術振興に逆行する

 文部科学省が所管する独立行政法人「日本芸術文化振興会」が、公開中の映画「宮本から君へ」に対する助成金の交付内定を取り消していたことが分かった。出演者のピエール瀧さんが麻薬取締法違反容疑で逮捕され、有罪判決が確定したことが理由だ。

 「国が薬物を容認しているかのような誤ったメッセージを与える恐れがあると判断した」と振興会は説明する。本当にそうなのか。
 映画が撮影されたのは、瀧さんが逮捕される前だ。常識的に判断するなら、作品に助成金を支出したからといって、国が薬物を容認していると受け取られることなど、およそ考えられない。
 識者が指摘するように、「犯罪を是認する意図はない」と映画のエンドロールで表示すれば済む。助成取り消しは根拠が乏しく、納得し難い。
 当局の眼鏡にかなう作品だけしか公的助成の対象にしないつもりなのか。恣意(しい)的な運用がまかり通れば、文化・芸術の衰退を招く。
 助成金の交付は3月に内定していた。瀧さんが逮捕された後、製作会社は助成金を辞退するか出演場面を編集し直すことを振興会側から求められたという。
 検閲を想起させる不当な介入だ。製作会社はこれを拒み、抗議した。当然の反応だ。有罪確定後の7月に「公益性の観点から適当ではない」とする不交付決定通知が届いた。
 国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」への補助金不交付を決めた文化庁の対応は「事実上の検閲」と批判を浴びている。振興会の決定も軌を一にする動きと見ていい。どちらも、表現の自由を揺るがす行為だ。
 今回さらに問題なのは、取り消し後の9月、振興会が要綱を改正し、「公益性」の観点から交付を取り消せるようにしたことだ。
 「公益性」の明確な定義はないという。具体例として「出演者らによる犯罪などの重大な違法行為を想定した」と振興会側は説明する。「公益性」という基準なら、いくらでも拡大解釈の余地がある。
 今回は出演者の違法行為を理由にしたが、その他、さまざまな理屈を付けて助成金の交付が取り消される恐れがある。そうした事態を避けるため、表現者の側が萎縮し、内容を自己規制するようになれば、凡庸な作品しか生まれなくなる。
 振興会が目的とする文化芸術の振興・普及どころではない。正反対の作用をもたらすだろう。
 「公益性」を振りかざすことで、事実上の検閲へとエスカレートしかねない。
 戦前・戦中は検閲で不適当とされた表現物の発表が禁止された。国民は国家が許容する範囲の情報しか得られないように仕向けられた。
 国民が見ていいもの、読んでいいものを国が決める社会に逆戻りすることだけは絶対にあってはならない。



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