<社説>観光公害でG20宣言 持続可能な産業にしたい


社会
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 地域のインフラの許容量を超えて観光客が押し寄せ、渋滞や騒音、ごみの増加、水不足など住民の生活環境が悪化する事態は「観光公害」「オーバーツーリズム」と呼ばれる。

 北海道で開かれた20カ国・地域(G20)の初の観光相会合は、旅行者の急増による住民とのトラブルや自然破壊といった観光公害の克服に向け、「訪問者、地域社会の双方に恩恵のある観光マネジメントを進める」とした共同宣言を採択した。
 観光公害は世界の観光地で問題化しており、克服へ向けた取り組みが急務となっていることの表れだ。観光地沖縄でも、特に外国人観光客の急増でさまざまなひずみが現れている。知恵を出し、観光産業の成長と地域の利益を両立させなければならない。
 世界的な観光ブームの中、観光は伸び盛りの産業だ。国連世界観光機関によると、世界の海外旅行者数は2000年の6億8千万人から18年には14億人に増加。海外旅行者によって訪問国が得られた17年の収入は1990年の5倍の1兆3400億ドルに上る。空港などのインフラ整備や雇用創出の効果は幅広い。
 沖縄でも観光は経済のけん引役だ。堅調な国内客に加え、特に外国人観光客が伸び続け、18年度に初めて300万人台に達した。
 しかしながら違法民泊による住民とのトラブルや生活道路にレンタカーが殺到して渋滞を引き起こすなどの観光公害が表面化している。宮古島などで見られるリゾートホテルの開発ラッシュに伴う地価や家賃の高騰も、急激な観光の伸びがもたらしたひずみの一つだ。
 観光公害対策には道路やモノレールなどのインフラ整備、自然や文化財の保護、観光客へのマナーの周知など取り組むべき課題は幅広く、地方自治体の努力だけでは限界がある。
 国は今年1月から、日本人も含め1人千円の国際観光旅客税(出国税)を徴収しており、19年度予算には500億円が計上された。この財源を誘客や旅行客向けの観光整備だけでなく、観光公害対策のために地域に配分するよう働き掛ける必要がある。
 さらに重要なのは旅行客の災害対策だ。土地や言葉に不自由な観光客は「災害弱者」になりやすい。多言語による情報発信、避難誘導などにあらかじめ手を打っておく必要がある。
 来年は那覇空港第2滑走路の供用開始に加え、東京五輪・パラリンピックがあり、観光客はさらに増える見込みだ。県は観光客1200万人を目標としているが、客数増だけを追い求めるのはさらに観光公害を生み出す。
 開発や入域の制限を含め地域と共存できる観光の在り方を検討する必要がある。それが結果的には沖縄の魅力を高め、持続可能な観光地につながる。少し立ち止まる心の余裕もおもてなしには必要だ。