<社説>あおり免許取り消し 悪質運転公道から一掃を


社会
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 警察庁が、悪質なあおり運転に対し免許を取り消せるよう制度を改正する方向で検討している。

 被害が相次ぐ中で、政府の対応はあまりにも鈍い。もたもたしている間に、新たな犠牲者が生まれる可能性がある。無法なドライバーは公道から一掃しなければならない。そのための仕組みを早急に整えるべきだ。
 あおり運転が社会問題化したのは2017年に東名高速道路で起きた事件がきっかけだった。無理やり停止させられた車にトラックが追突し夫婦が死亡した。被告は執拗(しつよう)にあおり行為を続けていた。
 18年には堺市であおり運転の車がバイクにぶつかり大学生が亡くなっている。今年8月には常磐自動車道で、蛇行や急減速を繰り返した男が、停止させた車の男性を殴打する事件が発生した。9月には、東名高速道路で前方の車をあおり、エアガンを発射したとして、男が器物損壊容疑で逮捕されている。
 警察庁は昨年、危険運転致死傷罪や暴行罪などあらゆる法令を駆使して捜査すること、車間距離保持義務違反など道交法違反による取り締まりを徹底すること、交通違反点数の累積がなくても免許停止にできる「危険性帯有者」の規定を積極的に適用することを全国の警察に指示した。取り締まりは強化されたものの、決め手を欠いている。
 現行の制度では、悪質で危険な運転をしても、事故を起こして危険運転致死傷容疑などで摘発されない限り、一発で免許が取り消されることはない。行政処分の在り方に不備があることは明らかだ。
 自動車は画期的な文明の利器だが、使い方によっては凶器にもなる。頻発する危険なあおり運転はその実例だ。
 規範意識の欠如した人間がハンドルを握れば、利便性を高めて生活を豊かにするはずの自動車が、他者を威嚇し傷つけるための道具と化す恐れがある。
 少なくとも、高速道路上で他の車両を強制的に停止させるような行為に及べば、即免許取り消しとしなければならない。安全を著しく脅かすからだ。
 車間距離を極端に詰めて追いかけ回したり、前に割り込んで妨害したり、おどかしたりする執拗な行為も、当然、免許取り消しにすべきだ。
 あおり運転を検挙する際に適用されている車間距離不保持や急ブレーキ禁止違反、進路変更禁止違反などの罰則を強化することも、併せて検討した方がいい。
 急速に普及してきたドライブレコーダーは事実の解明に役立つはずだ。違反したら直ちに免許が取り消されるとなれば、一定の抑止効果も期待できよう。
 制度の改正に際しては、罰則を適用する「あおり行為」を具体的に定義する必要がある。法令が拡大解釈されて乱用される余地が生じないよう、十分に注意すべきだ。