<社説>香港で市民弾圧激化 第2の天安門を危惧する


社会
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 香港情勢がますます混迷を深めている。市民の抗議活動が行われていた際、現場近くのビルから転落した男子大学生が死亡した。また香港警察は立法会(議会)の民主派議員3人を拘束し、さらに4人を拘束する方針という。

 大学生がデモに参加していたかどうかは不明だが、犠牲者が出たことによって抗議活動は激しさを増すだろう。香港政府側が強硬姿勢を示せば示すほど市民の反発を招くのは、5カ月も続く混乱が証明している。事態収拾の責任は香港政府にある。
 大学生の死に関し、デモ隊側は、警官隊が発砲した催涙弾を避けようとして落下した疑いがあると主張する。一方、警察は当初、転落現場は催涙弾を発射した場所から離れすぎているとして因果関係を否定したが、その後、現場近くで催涙弾を発射したことを認めた上で、「転落と関係があるかどうか調べる」と言を翻した。
 転落現場には千人以上の市民が訪れ、各地で追悼集会が開かれている。立法会の民主派議員は声明で「デモの現場で命を失う人が出たのは初めてだ」と非難した。市民の反発は強まる一方だ。
 さらに24日に行われる区議会選を前にして、立法会の民主派議員を拘束する策に出た。区議会選は民主派が議席を伸ばすとみられる。当局は立候補している4議員を含めて民主派の議員を狙い撃ちしたのか。5月に開かれた「逃亡犯条例」改正案を巡る立法会での審議を妨害した容疑とされているが、拘束はあからさまな選挙妨害だ。
 香港政府は10月に抗議活動の発端となった逃亡犯条例改正案を正式に撤回した。にもかかわらず事態が収束しないのは、香港政府が政府トップの林鄭月娥行政長官に特権を与える「緊急状況規則条例(緊急法)」を発動し、デモ参加者がマスクをしただけで罪に問える覆面禁止法を制定するなど強権的な手法を取り続けているからだ。
 林鄭氏は中国の習近平国家主席からお墨付きを得て、抗議活動にますます厳しく対応している。抑え込みに向けたさらなる法制度も検討しているという。既に3千人以上を逮捕し、特に覆面禁止法が施行された10月は1051人を逮捕した。
 中国政府は、1989年に当局が民主化要求運動を武力弾圧した天安門事件を「政治風波」と位置付けており、香港市民のデモも同じ表現で非難する。さらに香港と隣接する広東省深圳に武装警察部隊を駐留させ、けん制している。
 民主化を求めた学生ら多数の死者を出した天安門事件を香港への威嚇材料にする習指導部に、過去の弾圧を反省する姿勢は見えない。
 国際社会は中国に圧力や介入をやめて香港の自治を認めるよう、働き掛ける必要がある。第2の天安門事件は断じて許されない。その役割は日本政府にも求められている。