<社説>重度障がい者初質疑 当事者目線で制度改善を


社会
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 共生社会を根本から考えるきっかけとして、2人の言葉を共有したい。

 7月の参院選で初当選した重い障がいのある2人の議員が国会で初めて質疑をした。れいわ新選組の木村英子氏と舩後靖彦氏である。介助者の付き添い、電子機器を通じた音声、代読による質疑は憲政史上初めてである。
 木村氏は脳性まひで体がほとんど動かせないため、秘書らの介助を受けながら約30分間にわたり質問した。「障がい者が地域で生活するにはさまざまなバリアーがある」と述べ、障害者差別解消法の理念実現を訴えた。地震や水害の頻発を踏まえ、避難所となる学校などのバリアフリー化の必要性も指摘した。
 舩後氏は難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)で言葉を発するのが難しいため、パソコンの意思伝達装置による音声で抱負を述べ、秘書の代読で質問した。障がいのある子どもと、ない子どもが同じ場所で学ぶ「インクルーシブ教育」の推進を主張した。
 大学入学共通テストへの導入が見送られた英語の民間試験にも触れ、障がいのある生徒にも配慮して見直すよう求めた。
 両氏の訴えは、障がい者に対して社会に存在する差別とバリアー(壁)を顕在化させた。それらの改善は、あるべき共生社会の実質的指標とも言える。当事者だからこそ肌身で感じていることに裏付けられた重い言葉だ。
 参院では、両氏が大型車いすを利用できるよう本会議場の議席を改修し、採決に備えて押しボタン式の投票装置を設置した。質問時間を確保するための工夫など、さまざまな面に配慮している。
 一方で厚生労働省は当初、議員活動中の介助に公的補助は認めないとした。当面は介助費を参院が負担することになったが、制度の問題点を浮き彫りにした。就労や自立支援との矛盾だ。両氏は「障がい者は働くなということか。仕事を持つことこそ自立支援だ」と訴えた。
 介助費負担を巡っては、地方議会では既に国会と同様の課題に直面してきた。全身に障がいがある議員が月約15万円を自費で払ってヘルパーを雇う例もある。聴覚障がいのある議員は研修の際、政務活動費7万円を使って手話通訳者を雇った。障がいを理由に経費や活動費が制約されるのは他の議員と比べて不公平だ。改善を図る必要がある。
 この問題は国会や地方議会にとどまらない。働く意思があっても、介助費負担を理由に就労を諦めざるを得ない障がい者が社会に広く存在する。れいわの2人はそれを鋭く指摘した。
 政府は、両氏の訴えを機に、当事者の目線に立って障がい者支援に関する制度を根本的に見直すべきだ。まずは来年、大勢の障がい者が来日する東京パラリンピックを目標に、世界水準のバリアフリーを目指したい。