<社説>保釈された被告逃走 市民危険にさらす失態だ


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 罪を犯し検察から起訴された被告が逃走する事件が相次いでいる。なぜそのような事態を招いたのか。検察は早急に原因を究明し、再発防止策を講じなければならない。

 覚せい剤取締法違反(所持と使用)の罪で公判中だった被告の男が9日逃走した。男は保釈中だったが、公判に出頭しないため保釈が取り消された。大阪地検が護送していた時に事件は起きた。
 検察事務官3人が乗った車内で「手錠がきつい」と男が訴えたため、事務官が左手の手錠を外したところ、暴れ出した。もみ合った末、隙を突いて逃走したという。検察は2日後の11日に男の身柄を確保したが、大失態と言わざるを得ない。
 10月30日には、同じ大阪地検の岸和田支部で逃走事件が発生している。自動車運転処罰法違反などの罪で起訴され、保釈中の被告の女が公判に出頭せず、保釈が取り消された。
 女は、収容の手続き中に、荷物を取りに行くと申告し、その隙に息子の車で逃走した。11月1日に身柄が確保された。この時の反省が全く生かされていない。
 相次いだ事件から改めるべき課題がある。まずは検察の情報開示の姿勢だ。大阪地検は今回の事件の発生直後に110番通報したが、自治体への通報は約2時間後だ。岸和田支部で女が逃走した際は発生から5時間後に公表した。
 逃走した被告は気持ちも高ぶっていよう。最も懸念しなければならないのは市民に危害が及ぶことだ。公共施設は休館を余儀なくされた。児童生徒が危険にさらされた。住民への情報開示と、周知こそが一刻を争う最優先事項であることを検察は肝に銘じるべきだ。
 男の身柄が確保された後に大阪地検は「申し訳ない」と陳謝した。しかし男が確保された状況や逃走経路については「回答を差し控える」と繰り返している。
 被告や容疑者らが逃走し一般社会に紛れ込む事件である。説明責任を尽くさない検察の態度は、市民が事件に備える機会も奪っている。検察は情報開示に対する姿勢を速やかに改めるべきだ。
 一方で確認しておくべきことは、保釈された被告の逃走事件が起きたからといって、安易に保釈の厳格化に結び付けてはならないことだ。
 長期間に及ぶ身柄の勾留は「人質司法」と呼ばれ、世界的に批判を浴びた。それを受け保釈が認められるケースが増えているのも確かだ。
 司法統計によると、保釈許可の割合は全国の地裁で2008年に約15%だったのが18年は約30%に倍増した。
 こうした司法改革に追い付いていない検察の体制こそが問題だ。事務官は日頃から逮捕術などの訓練を受けていない。未整備の課題が多い。改革の流れに対応した情報開示や人的体制の構築が急務である。検察は猛省すべきだ。