<社説>安倍首相が在職最長 強権の弊害計り知れない


社会
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 民意をことごとく無視し、強引に地域社会の分断を促す。民主主義をないがしろにする最長政権と言っていい。

 安倍晋三首相の在職日数が20日、第1次内閣を含め通算で2887日となった。戦前の桂太郎を抜いて憲政史上歴代1位という。
 復帰後の歴代政権で沖縄に対し最も強硬で冷淡な姿勢をとってきたのが安倍内閣だ。政権の長期化が、県民に苦難と試練をもたらしたことは疑いない。名護市辺野古の新基地建設が安倍政権の性格を如実に示している。
 県内の主要な選挙結果からも反対の民意は揺るぎない。新基地建設反対を掲げた候補者が立て続けに当選した。昨年9月の県知事選で玉城デニー氏、今年4月の衆院3区補欠選で屋良朝博氏、7月の参院選で高良鉄美氏が勝利している。
 それ以前にも政権が推す候補に対し、新基地建設反対を掲げるオール沖縄陣営がほぼ連勝した。あらゆる選挙で全国とは対照的な結果を示したのが沖縄だった。
 にもかかわらず基地建設は続いている。正当な手続きを経た民意が行き場を失う。民主主義の根幹が崩れる事態が起きている。
 2月の県民投票では投票率が5割を超え、7割超が埋め立てに反対した。
 民意を一顧だにせず、異論を排除する安倍首相の姿勢から、意に沿わない者を敵視する発想がうかがえる。こうした態度は地域社会の分断を加速させる。看過できない。
 そのスタンスは沖縄関係予算にも表れている。本年度は3010億円と、前年度と同額になった。しかし特徴的なのは国直轄の比率が60%から63%に増えたことだ。
 自由度が高い一括交付金を大幅に減らし、その上で「沖縄振興特定事業推進費」を新設している。県を通さずに国が直接市町村へ交付できる仕組みである。
 名目上は「一括交付金の補完」だ。しかし国から市町村へ直接交付できるため、国の関与の度合いが強まった。国の施策に沿う自治体を優遇する新たな「アメ」として使われる懸念はぬぐえない。
 北部振興事業費、離島活性化推進事業費なども合わせると政府が直接関与する予算の比重は高まった。予算を使い懐柔をもくろんでいるとしか思えない。県と市町村の関係を含め県民同士の分断を誘発する底意も透けて見える。
 江戸幕府が直轄地を設け、財源とした天領をほうふつとさせる。権力分立といった近代国家の統治の在り方を江戸時代に巻き戻したいのかと、疑いたくなる。
 地方自治をゆがめかねないことを平然とやってのけたのも最長となった一強政権のなせる業だ。
 長期政権で培われた強権の弊害は計り知れない。安倍首相に求められるのは民主主義の本旨に立ち返ること。その一点に尽きる。