<社説>自治条例廃止の動き 理念まで全否定するのか


社会
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 「自治体の憲法」といわれる自治基本条例を廃止する動きが石垣市で浮上した。

 石垣市議会の市自治基本条例に関する調査特別委員会が条例を廃止すべきだとの結論を出したのだ。
 自治基本条例は2010年、県内で初めて石垣市で施行された。市政運営の最高規範と位置付けられる。情報共有、市民参加、協働、多様性尊重の原則を掲げた。市政運営の公正の確保と透明性の向上のため市民への説明に努めるよう市に求めている。
 廃止を主張するのは条例の理念を含め全てを否定するに等しい。情報の公開・共有、市の説明責任、安心・安全なまちづくり、自然環境の保全・再生、文化の継承・発展といった規定まで不要だと判断しているのだろうか。
 調査特別委は「(条例に)いくつかの不備が見られる」などと与党が主張して今年3月に設置された。野党は反発し委員に加わっていない。
 審議では、条例が全会一致で可決されていない経緯を踏まえ、仕切り直しをすべきだといった意見が出たという。
 「市内に住み、又(また)は市内で働き、学び、若(も)しくは活動する人」という市民の定義について、住民登録をしていない人も含まれると問題視する発言もあったようだ。
 不適切と思われる部分があるのなら改正を提起することも可能だ。同条例は「市民の意見を踏まえて、この条例の見直しを行い、将来にわたりこの条例を充実発展させるものとする」とうたう。
 見直しに当たっては審議会を設置し、諮問しなければならないと定めている。廃止に関する規定はない。
 内容に疑義があれば、まずは改正を求め、一つ一つについてその是非を議論するのが筋だろう。いきなり廃止を求めるのはあまりにも乱暴だ。
 条例には住民投票に関する規定がある。有権者の4分の1以上の連署で市長に住民投票の実施を請求できるとする。請求があったとき、市長は「所定の手続を経て、住民投票を実施しなければならない」と明記している。
 石垣市平得大俣への陸上自衛隊配備計画を巡り、市住民投票を求める会が昨年12月、有権者の約4割に当たる署名を集めて住民投票の実施を市に直接請求した。その根拠としたのが基本条例だ。市議会は今年2月、市提案の住民投票条例案を否決した。求める会が市を提訴し係争中だ。
 条例廃止まで踏み込む理由は何なのか。住民投票実施のためのハードルを上げたい思惑もあるのだろうか。疑問は尽きない。
 自治基本条例は、開かれた議会運営を図ることで市民の意思を反映し、市民福祉の増進に努めなければならないと議会に求めている。
 廃止すべきだという決定は多くの市民の意思に反するものではないのか。特別委には、廃止が必要な理由を筋道立てて明らかにする責務がある。