<社説>増加傾向の労災 重大事故の根絶に全力を


社会
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 国頭村安波の「沖縄やんばる海水揚水発電所」の解体工事現場で、撤去作業中の電気ケーブルが落下し、作業員2人が死亡した。あってはならない事故で、痛ましい限りだ。

 落下したケーブルは長さ約35メートル、重さ約350キロ。発電所を管理する電源開発(Jパワー)によると、地上からの深さ約150メートルの立て坑内で、ケーブルを滑車で地上に引き上げる作業をしていたが、何らかの原因で落下し、足場にいた2人を直撃した。ケーブルは数十メートル落ちたという。
 事故当時は約20人の作業員が地下で作業中だったという。警察は業務上過失致死の疑いも視野に捜査を進めている。一日も早い、事故原因の徹底的な究明が待たれる。
 同発電所は1999年、世界初の海水を利用した揚水発電所として通産省(当時)の委託を受けたJパワーが設置した。電気代の安い夜間に水をくみ上げて日中に放流し、落差を生かして発電する仕組みだったが採算に乗らず、2016年に廃止となった。
 解体工事は今年10月から来年1月までの予定だった。発注者はJパワーで、元請けの子会社を通して下請けに県内の解体業者が入っていた。
 県内では今年に入り労働災害が多発傾向にあり、非常に気掛かりだ。沖縄労働局によると19年の産業事故による死亡災害は今回のケーブル落下事故を合わせて11人に上る。18年の4人から大きく増加している。今年の労働災害は10月末までに924人に達しており、このままのペースだと過去最悪だった1973年を上回る懸念もある。
 沖縄労働局は労災が増加傾向にある建設と港湾荷役の業界団体に対し、防止対策徹底の緊急要請を先日行った。両業種に限らず、労災が例年多発する年末年始に向けて、あらゆる業種で職場環境を再点検しておきたい。
 沖縄経済は観光客の増加や旺盛な建設需要がけん引する形で景気の拡大が続いている。だがその陰で、仕事量の急拡大に労働者の健康安全対策や職場環境の整備が追い付かないような状況を発生させてはならない。
 建設業界では全国的に大規模災害の復興復旧や20年東京五輪の需要などもあり、慢性的な人手不足が続いている。他業種から転職した不慣れな作業員が現場に増えたり、日本語がまだ苦手な外国人労働者を採用したりなど、労災の増加も心配されている。
 時間外労働(残業)に罰則付きの上限を設けた働き方改革関連法が今年4月に施行された。中小企業にも来年4月から順次適用されるが、当然ながら法令だけでは労働者の健康や安全は守れない。
 労働災害は本人・家族はもちろん、当該事業所ほか社会にも大きな損失をもたらすものだ。安全意識を高め、対策を徹底させることが全体の幸福と利益にもつながる。労災事故を根絶するため官民挙げて全力で取り組むべきだ。