<社説>NHK会長人事 自主自律の理念再確認を


社会
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 NHKの上田良一会長の後任に元みずほフィナンシャルグループ会長の前田晃伸氏が選ばれた。上田氏の続投も有力視されていたが、NHKの最高意思決定機関である経営委員会は交代を決めた。

 上田氏は2017年に会長に就任した。前任者は、「政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない」などと問題発言を連発した籾井勝人氏だ。職員の不祥事も相次ぎ、上田氏は混乱の収束や組織の立て直しに力を注いできた。
 経営委は次期会長について財界関係者を軸に複数の候補から選考を進めたが、前田氏が全会一致で選出された。交代に関して「ガバナンス(組織統治)に問題があった」との声が上がったという。
 だがガバナンスに関してまず指摘されるべきなのは経営委の姿勢ではないのか。
 NHKを巡っては、かんぽ生命保険の不正販売を追及した番組に対して、政権に近い日本郵政グループから抗議を受けた経営委が昨年、会長を厳重注意していたことが発覚し、NHKの「自主自律」が大きく揺らいだ。
 この問題で郵政側は、不正販売の情報提供を呼び掛ける投稿動画の削除を求めた。結果的にNHKは動画を削除し、当初回答に抵抗していた上田会長が事実上の謝罪に追い込まれている。本来は報道機関への不当な要求を排除すべきはずの経営委が、制作現場に圧力をかけるような対応をしたことこそが問われる。
 NHK執行部の総責任者である会長は、経営委の委員12人のうち9人以上の賛成で任命される。かつては新聞社出身や生え抜きが多かったが、08年に就任したアサヒビール出身の福地茂雄元会長以降、今回の前田氏で5人続けて経済界出身者となる。
 NHKの受信料収入が過去最高の7千億円を超え、巨額の剰余金も抱える中、財界出身の会長が続くことに疑問もある。識者や市民団体などからはジャーナリズム精神に富んだ人物の起用を求める声が上がる。気になるのは次期会長の前田氏と政権の近さだ。
 前田氏は、安倍晋三首相を囲む財界人の勉強会「四季の会」のメンバーだった。今回の人事には首相官邸の意向が強く働いたとの見方も強い。
 前田氏は記者会見で四季の会への参加を認めた上で「権力を持った政権が報道機関からチェックされるのは当たり前。きちっとした距離を保つ」「どこかの政権とべったりということはない。その気もない」などと述べた。言行一致が何よりも求められている。
 存在意義が問われた経営委では、石原進委員長の任期満了の退任に伴う後任が近く選出される。経営委の人事も近年、国会での全会一致の同意の慣例が崩れ、政府主導の人選になっているとの批判がある。会長人事と併せて幅広く議論する必要がある。NHKは自主自律を確保し、視聴者の信頼に応えるため組織の在り方を再確認してほしい。