<社説>かんぽ保険不正販売 全経営陣を刷新し出直せ


社会
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 経営者の体をなしていないことは明らかだ。

 日本郵政グループのかんぽ生命保険と日本郵便による保険不正販売問題で、外部有識者でつくる特別調査委員会は、法令や社内規則に違反した疑いが1万2836件に上ることを報告した。当初、日本郵政の長門正貢社長は「法令違反はなかった」と発言していた。経営者として危機意識が欠落した無責任な言動だったといえる。
 さらに特別委の報告を踏まえた18日の記者会見でも、持ち株会社として果たすべきガバナンス(企業統治)が機能してこなかったとの指摘に対し、長門社長は「全く間違い。鬼のように議論している」と反論した。顧客に不利益を与える不正契約がここまで広がった原因や責任について、誠実に向き合おうとする姿勢が感じられない。
 報告書からは、販売ノルマを達成するためモラルを欠いた保険営業が横行し、低実績者にはパワハラ的な叱責(しっせき)が加えられるなど、目標必達主義を背景とした過酷な職場環境が読み取れる。部署間の監視が効かない巨大組織の無責任体質も放置されてきた。
 保険の切り替えを勧められた高齢者らは、公共性が高い郵便局の職員が人をだますなどとは想像もしなかっただろう。郵便局への信頼を利用した不正行為であり、罪深い。経営責任は極めて重い。
 経営者の資格がないことは初動対応が示している。
 2018年4月に、NHKが報道情報番組「クローズアップ現代+(プラス)」でいち早く問題を取り上げていた。遅くともこの段階で徹底的に内部調査を実施し、早急に対策を打つべきだった。
 ところが、郵政側は報道に矛先を向け、NHKに抗議し「ガバナンス強化」を迫った。かんぽ生命が保険の乗り換え契約の存在を認めたのは今年6月だ。
 18日の会見は一方的に質疑を打ち切った上に、クローズアップ現代+のディレクターを最後まで指名しない恣意(しい)的な進行を見せた。報道に圧力をかけ、不正の実態解明を遅らせてきた責任をどう認識しているのか。
 問題が起きても自浄作用を発揮できない郵政グループこそ、徹底したガバナンスの強化が必要だ。
 郵政民営化に伴い持ち株会社と金融2社が15年に上場し、営業至上主義が助長された。一方で、今も政府は日本郵政の株式の約57%を所有する大株主だ。経営者が政府の方向を向き、官庁や政治に経営が左右されやすいいびつな構造が残る。これが健全な企業統治をゆがめてきた。
 今の体制では自浄作用は期待できない。全経営陣を刷新し出直す必要がある。顧客第一の立場で、規範意識を組織に根付かせる清廉な人物の起用が不可欠だ。国民のインフラである郵便局の信頼をこれ以上失墜させるわけにはいかない。