<社説>自衛隊の中東派遣 国の針路誤らせかねない


社会
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 政府は27日、海上自衛隊の中東派遣を閣議決定した。派遣の法的根拠の薄弱さは当初から否めず、場当たり的な対応のまま、国の針路を誤らせかねない決定と言わざるを得ない。

 派遣の根拠法は防衛省設置法だ。同省の任務や所掌事務などを定めている。同法4条は「所掌事務の遂行に必要な調査および研究を行うこと」と規定し、自衛隊が警戒監視や情報収集活動を行う根拠としている。
 北朝鮮のミサイル発射や中国公船による領海侵入に対する警戒監視活動の根拠にもなっているが、抽象的で曖昧な条文としか言いようがない。日本近海ならともかく、中東での活動の根拠となり得るのか。疑問だ。
 同法は活動地域を限定していないため、2001年9月の米中枢同時テロ後に海自艦をインド洋へ派遣した際にも一時的に、この調査・研究を根拠とした経緯がある。
 だが忘れてはならないのは直ちに時限的な特別措置法に基づく活動に切り替えたことだ。イラク派遣の際も特措法が整備された。中東派遣の根拠法とするには無理がある。
 改めて問題視しなければならないのは国会の承認を必要としないことだ。自衛隊の海外派遣は憲法との整合性が問われている。そんな国の重大な決断を国会の審議も経ずに許すなどあってはならない。
 今回の派遣の根拠法となった防衛省設置法は、政府、与野党から「魔法のカード」「使い勝手がいい」などと評されている。文民統制の間隙(かんげき)を突いた法の拡大解釈としか言いようがない。乱用の域に達している。
 政府の閣議決定では、護衛艦1隻が来年2月に出航する。アフリカ・ソマリア沖で海賊対処活動に当たるP3C哨戒機も活用し、規模は260人程度となる。派遣は1年だ。
 鋭く対立が続く米国とイラクのはざまで、米国の顔を立て、イランとの関係悪化を避けるためひねり出した苦肉の策だろう。とはいえ、自衛隊を無用な危険にさらすことに変わりはない。
 米国主導の有志連合には参加せず、独自の活動とするものの、「米国との緊密な連携」も掲げている。収集した情報は共有し、バーレーンにある米軍司令部には自衛隊の連絡官も派遣する。
 独自の活動と言っても、イランなど中東諸国が、日本の都合のいいように区別してくれるとは思えない。偶発的な衝突の恐れも否定できない。
 政府が今なすべきことは、自衛隊の海外派遣を再考することだ。慎重さを欠いたまま、自衛隊派遣の実績を積み重ねていいはずがない。いつか取り返しのつかない事態を招く恐れがある。
 まず国家の基本法である憲法に立ち返りたい。国際協調主義に基づく仲介外交に引き続き力を尽くすべきだ。多くの犠牲で得た平和憲法が国の針路を示している。